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ダニ駆除

概要

放牧地で草を食んでいる牛がダニに襲われる場合があります。乳器や外陰部など皮膚の薄い部分に無数のダニが真っ黒く付着すれば、牛は痩せ細り、ダニ熱(=ピロプラズマ病)という貧血症状を起こすこともあります。

三宿主性

この草原のダニは「フタトゲチマダニ」といいます。幼虫の時に牛の皮膚に寄生し、牛の体から離れ落ちて地上で脱皮し、再び若ダニとなって牛の皮膚に寄生します。つまり、三宿主性を持っています。
フタトゲチマダニの成虫は、牛の血を吸うと人の小指の先程の大きさに膨張します。その吸血量は1㌘ほどもあり、1度吸血すると皮膚に食い込んでなかなか離れません。成虫は交尾後、草地に脱落して約3,000個以上も産卵します。

被害

ダニによる畜産の被害は、血液の損耗と体力の消耗、さらに痒みによるストレス等が挙げられます。また、タイレリア原虫が血液中に侵入すると赤血球が破壊され、発熱や貧血につながります。牛の発育は大きく阻害され、最悪の場合は死に至ることもあります。
阿蘇家畜保健衛生所を中心に、このダニ駆除に対してこれまでさまざまな施策がとられてきました。放牧衛生の歴史は、言い換えれば「ダニ駆除の歴史」でもあります。

アセビ(馬酔木)の汁を利用

明治から大正時代にかけてはダニによく効く殺虫剤が開発されておらず、農家の人々は阿蘇地方に自生しているアセビを利用してダニ駆除を行っていました。風土のなかから生まれた知恵でした。
アセビ(ツツジ科)は産地の草原に生育する高さ1.5~5m程の常緑の低木です。早春には白い花を垂れ下がった状態で付けます。和名は「馬酔木(あせび)」と書き、牛馬が誤ってこの葉を食べると中毒をおこすので、この名前が付けられたとされています。
ダニ駆除の薬はアセビの葉を摘み取り、釜で煎じて作られていました。この汁を牛の体に塗ると、ダニが近寄らないとされ、牛が食べると中毒する作用をダニに応用していました。
昭和14年、馬場豆札牧野組合長より馬政局に提出された模範牧野指定申請書の中に、ダニ駆除についての記録が残されています。

「ダニ取りデーを月三回設けて、組合員総出動して放牧畜に付着せるダニの駆除をなさんとす」

このほか、

「牧区を移転せしむる際、組合員全部出動しミケゾール(殺虫剤)塗布三回施行す」

ともあります。ダニ駆除牧野組合員総動員による重要な放牧衛生対策でした。

航空機による効率散布

戦後、進駐軍は日本国内の衛生環境の改善を図り、BHC粉剤の放出を開始しました。飼育農家は昭和二七年から、このBHCをタンポンを使って牛体に散布しました。有機塩素系の薬品だけに効果抜群でした。
しかし、薬品の牛肉への残留性が問題となって昭和39年に使用禁止され、翌40年からは水和剤や粉剤の牛体散布に転換されました。
46年から56年までの11年間は、画期的なヘリコプターによる草地散布が実施され、毎年数千㌶、約1億円相当の薬品が撒かれました。航空機による大規模な農薬の散布は当時のビッグニュースでした。
このほか、阿蘇家畜保健衛生所が実施した実用化試験として以下のような物がありました。

年代散布法
昭和51年牛体散布スプレー、同シャワー法、薬浴法、ダストバッグ法
昭和52年~同53年牛体散布間隔の比較
昭和57年~同62年スピードダスターによる草地への地上散布
昭和61年~新しいピレスロイド系の薬剤によるプアオン法(皮膚に吸収されにくい油性製材の畜体塗布)によるダニ駆除の野外試験

プアオン法は

  1. 薬効に高い安定性と持続性がある
  2. 施設や器具が削減できる
  3. 作業がかんたん
    などの理由から労働力の削減が図られるという総合効果に優れていたため、平成2年から新技術として急速に普及しました。
    こうした有効な薬品の開発によって、現在は放牧牛の体もきれいで栄養状態もよく、草原で快適な生活を送れるようになりました。

カテゴリ : 文化・歴史
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