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リーダー牛

概要

緑の絨毯のような牧草地に放たれた牛は、飛び跳ねたり頭を土に擦りつけたりして開放感を前身で表現します。伸びてくる草を次々に食みながら、霜が強くなって牧草が枯れる11月下旬までの約240日間、同じ集落で飼われる仲間と放牧場での生活を行います。
従来の野草地だけでの放牧は5月から10月までの150日間程度でしたが、牧草は低温伸長性が強く、野草が冬枯しても緑を保つので90日間ほど放牧期間が長くなりました。
阿蘇郡の放牧頭数は平成9年現在、成牛で約1万頭、飼育農家数は約2,000戸、1戸当り平均5頭です。放牧地で数10頭の牛が群れているのをよく見かけますが、これは複数の畜産農家から集まった牛たちの混成集団です。放牧地は集落の人々の共同利用の場になっています。

そのなかで、放牧経験と体力、指導力のある牛がリーダー牛となります。暑いときは風通しのよい丘に、または水飲み場に、寒いときは谷へと群れを誘導します。さらに、キツネや野犬などが接近すると、群から離れて1頭で対決。常に群れ全体を統率して、守っています。そのため、農家はリーダー牛さえ誘導すると、群れ全体をうまく動かすことが出来たのです。
牛は角という武器を持ってはいますが、放牧場で争うことはめったにありません。放牧場はイジメやケンカのない牛社会です。牧歌的風景を楽しみながら牛の営みを知ると、さらに放牧場が楽しく見えてきます。
放牧地での牛の生活行動について、熊本県畜産試験場阿蘇市場(現熊本県草地研究所)が調査した結果、30頭の牛群のうち3頭に印をつけ、調査者が交替で2昼夜にわたって追跡しながら、牛の行動区分(採食・反芻・休息・遊歩・飲水・排糞・排尿他)を5分間隔で記録しました。同時に、歩行した跡を地形図に描き、歩行距離を算出しています。
この調査結果によれば、牛の採食は日の出と日没前後のそれぞれ3~4時間に集中し、1日2食であることが分かりました。食間には反芻(はんすう)(第一胃に入れた草を再度口に戻して噛む状態)を行い、これは1日7~8時間位、採食する草の重量は体重(標準は成牛で600㌕)の10~12%と考えると、1頭の牛が1日に生草60㌕前後を食べる計算になります。主に草丈20~30㎝の草を好んで食べるが、これは短い草が牛の長い巻き舌での採食に都合がよく美味しいからです。牛の「舌刈り」は、草原景観維持の役割を果たしているといえます。また、歩行距離は1日3~6㌖で、草の多い草原では比較的短く、少ない草原では長距離を歩きます。
このほか、休息は起立や横臥した状態で行い、1日9時間前後と全行動の中で最も長く、雨の日は立ったままで休息し、風の来る方向に尻を向けて雨をしのぎます。自然と共生しながら暮らす牛の知恵が随所にみられます。

カテゴリ : 阿蘇の自然
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