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坂の上トンネル

弔魂碑

一の宮町坂梨の浄行寺に境内に「弔魂碑」がたっています。
碑文には「豊肥線工事中其職ニ殉じた諸氏ノ英霊ヲ弔フベク大阿蘇山下噴煙を望ムノ地ニ此碑ヲ建」とあり、建立者は工事を請け負った鉄道工業株式合資会社です。しかし昭和2年(1927)9月1日、豊肥線坂の上トンネル工事の落盤事故では5人が犠牲になりましたが、その氏名は刻まれていません。
当時の新聞には、内1人は地元の中通村の井上勇、19歳で、あとの4人の出身地は島根県2人、宮崎県、韓国各1人です。韓国出身者の名は日本名ですが、改姓させられた朝鮮人の可能性もあります。この鉄道工事にはかなりの数の朝鮮人が働いていたようで、当時を語る書物には「人夫の人たちで印象深かったのは、韓国からの人々で、その働きぶり、生活様式など、びっくりしたものだった。コショウをばりばりと食べる。重いセメント樽を腰に調子をつけて運ぶ。女、子どもは砂利づくりのために石を金槌で割る・・・」とあります。

当時のトンネル工事

豊肥線のうち宮地、犬飼線の開通後、大分県側から三重町、緒方、朝地、竹田と延びてきて、最後に残っていた難所、宮地ー玉来間31.5㎞の工事が着手されたのは大正14年(1925)9月25日でした。宮地から外輪山へと東進するには、屏風のような巨壁が立ちふさがっていました。カルデラの底の坂梨と外輪山波野高原との高度差は230.3㍍。ここに5つのトンネルが掘削されました。天狗トンネル(262.53㍍)、神石トンネル(371.76㍍)、堂山トンネル(146.86㍍)、願成就トンネル(664.86㍍)、坂の上トンネル(2283.26㍍)で合計3729.27㍍です。
坂の上トンネルは大正14年10月から掘削を開始し、昭和2年(1927)4月には波野口からも掘削が開始されました。臨時の火力発電所を設置し、その電力で掘削機を動かし、また空中ケーブルによって工事材料を運びました。トンネル内の土砂運搬にはエンドレスを用い、坑内の換気を図るためターボブロアを備え、空気の流れを作りました。当時としては最新の技術で行われたトンネル工事でした。
昭和2年8月2日午後1時5分、坂の上のトンネルが貫通した瞬間、トンネル内部で工事関係者の歓声がわき起こり、祝杯があげられました。貫通祝賀式典が8月28日、坂梨側で行われ、煙火が打ち上げられ、坂梨小学校生徒500余人の旗行列があり、馬場八幡宮境内では九州各県の力士150人の大相撲が奉納された。
坂の上トンネル内の落盤事故があったのはその貫通1ヶ月後のことでした。9月1日午前3時頃、約30人の作業員が煉瓦舗装の工事中、約60㍍にわたって落盤があり、逃げ遅れた5人が犠牲になりました。徹夜の救出作業が行われましたが、崩壊した土砂量が多く、8日夕刻までに5人の遺体が掘り出されました。9月9日、坂梨の浄行寺で会社葬が行われました。同トンネルの工事が完了したのは翌3年10月3日でした。

人口の増加

鉄道工事関係者で坂梨や波野村の人口は膨れ上がりました。請負の会社の幹部は家族を連れてきて間借りし、作業員らは小屋住まいをしました。
間借りの人は幹部級の人たちで、その人たちの日常生活の様式は今日のサラリーマンに似ていました。台所の品々調理の方法など目新しいものであったようです。(カステーラを自宅で作っていました)子どもたちは学校が終わると、毎日のように工事の様子を見に行きました。工事用の汽車が通るようになると、役場の人たちは宮地出張の時は乗せてもらっていたようです。歩かないで良いので楽ではありましたが、トロッコの上に乗ると坂の上トンネルでは、煙で着物も顔も真黒。建築列車が通ると、わいわい騒ぎながら毎日のように見に行っていました。

坂梨には、松村五郎という土建の元締めが事務所を構えており、多くの人が出入りしていました。藩政時代、坂梨の仲町には手永会所が置かれ、阿蘇谷東半分の行政の中心地で、豊後街道が通り、御茶屋も置かれたため、街道筋には町屋がが形成され、明治になっても宮地を上回っていました。
「大阪に坂無し、坂梨に坂有り」と伝えられた難所滝室坂を控え、昭和初期には馬を2頭ほど置いて荷や人を運ぶ「駄賃取り」が5、6軒ありました。
登りより降りが危険でした。あまり荷が重いと勢いがつき、馬が荷車に押しつぶされます。後車輪を固定し、ゆっくりと進ませます。富永屋、大黒屋、萬屋と造り酒屋が3軒、坂名屋、三国屋など宿屋が3軒、たばこ屋が6軒、豆腐屋が7軒。紺屋も提灯屋、石屋なども軒を並べていましたが、鉄道工事が終わり、豊肥線が全線開通すると、次第に町筋は寂れていきました。しかし鉄道工事が終わった後もこの土地に縁があり、住み着いた人も少なくありません。

参考

一の宮町史 豊肥線と阿蘇 ~近代の阿蘇~

カテゴリ : 文化・歴史
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