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黒川(くろかわ)の河童(かっぱ)

 黒川の河童たちは、下流の立野(たての)と内牧(うちのまき)、そして宮地(みやじ)のあたりに住んでいたらしいのですが、なかには山に登って山童(やまわろ)になった河童もいるそうです。河童たちが、大勢の仲間と一緒に川をさかのぼって行く時は夜が多くて、あまりその姿を見た人はいません。これは、宮地に住んでいるお年寄りから聞いた話ですが、阿蘇山に降った雨を集めて流れる東岳川(ひがしたけがわ)には河童がいたというのです。その人はこんな話をしてくれました。

 私が若い頃のことだけど、東岳川を渡る河童の話し声を聞いたことがあるんです。私の家は川のほとりに建っていました。だから餌(えさ)を求めてやってくるサギやカワセミは、よく見かけていました。でも、河童の姿や声を聞いたことはありませんでした。この川に河童は住めません。少し水が少ないのです。ですから山童になる河童たちが、山のほうに行く途中だったのでしょう。

 ある夏の真夜中のことでした。その日は、仕事の疲れで早めに寝たせいか、夜中に目が覚めてしまいました。その時です。川下の方角から、川をつたって何者かがやって来るような音が聞こえてきました。人の声のようでもあり、違うようでもありました。

 始めはずっと下のほうから、かなり大きな声を出していたようでしたが、家のそばに近づいて来ると、声はほとんど聞こえないようになって、川を静かに渡る水音だけが聞こえていました。よほど外に出て見ようかと思いましたが、もしそれが、沢山の河童たちだったら大変なことになる、河童は馬を見ると、すぐに川の中に引き込んでしまうということを聞いていました。

 また人間に会うとすぐに、「すもうをとろう」と、言って組みついてくる。そして、はらわたをお尻から引き出してしまうんだ。小さい時からそう聞かされていたんで、怖(こわ)くて外に出てみる気はしなかったんです。

 すると、やがてまた川上で大きな声が聞こえ始めました。人の家のそばを通る時には、むこうも用心してるのではないかと、その時思いました。あれ以来、私は河童らしい声や物音を聞いたことはありません。きっと彼らは山童になったんでしょう。今でもそう思っています。

 話し終わって、そのお年寄りは、もう一つの話をつけ加えました。

 これはずっと下流のことだけど、東岳川の水は流れ下って黒川に入ります。そして、だんだんと外輪山(がいりんざん)から流れ出す水と一緒になって量がうんと増え、深いところが多くなるんです。この深いところに河童が昔から住んでいると言われていました。

 昔のことです。夏の暑いある日、子どもたちが川に水浴びにやってきました。ちょうど水遊びするのに都合よく、砂が一方の岸にたまっていました。そこに脱いだ着物を置いて、川に入るのです。

 向こう岸は、大人の背も届かないほど深いところです。そこには何本かの杭(くい)が打たれていました。子どもたちは流れに乗って、上のほうから川をななめに横切って、杭までうまく泳ぎつくという遊びをしていたのです。

 泳ぎの上手な子でも油断すると、強い流れに押されて、杭につかまる事ができません。下のほうに流されてしまいます。しばらくの間、みんな楽しく泳いでいたのですが、一人の子が溺(おぼ)れて流されてしまったのです。大さわぎになって、村中みんなで川を探しましたが見つかりません。

 家の人たちは、なげき悲しみました。そして、あんなに泳ぎのうまかったあの子が、溺れるはずはない。これは淵(ふち)に住んでいる河童のせいだと考えたのです。

 そこで、わなや網(あみ)をかけて河童を捕まえようとしました。河童たちには、濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着せられて迷惑(めいわく)なことでした。ここにいては、捕まえられて何をされるかわかりません。すぐさま山に逃げこもうとして、川を出ました。途中、キツネに出会ったのです。

「やあ、これはめずらしい河童さん。一体あんたは、どこへ出かけるんです。こっちのほうに川はありませんよ。」

「いやあ、今までの川は危なくてね。今から山に住もうかと思ってるんですよ。」

河童は訳を話しました。今度は河童のほうが聞きました。

「キツネさん、あんたこそ、里のほうへ何をしに行くのです。」

「私のほうも同じようなことです。自分勝手に山に入った人間が道に迷ってしまい、迷ったのはキツネにだまされたからだと言って、山狩(やまが)りを始めたというわけです。私も追いまわされて、やっとのこと、ここまで逃げて来たんですよ。」

 そこで河童もキツネも考えました。どこに住んだって同じこと、やっぱり、住みなれたところが一番だと、また元のところへと引き返していったのでした。

参考

くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-


カテゴリ : 文化・歴史
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