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文化・歴史

阿蘇という名前

概要

「阿蘇(あそ)」という地名の語源については、古代文献・地名学・言語学の観点から複数の説が 提唱されており、現在もひとつの定説には至っていません。日本の地名研究において、「アソ」の 音は火山地帯に多く分布することが知られており、この音そのものが古代の自然環境を反映して いる可能性が高いと考えられています。

文字の変遷

「アソ」という音に充てられた漢字表記は、時代によって変化しています。

現存する文献のうち最も古い部類に属する『肥後国(ひごのくに)土記(ふどき)』逸文(いつぶん) では「閼宗(あそ)の県(さと)」と記されています。同じ逸文は『釈日本紀(しゃくにほんぎ)』に 引かれた「筑紫(つくし)土記」にも「閼宗(あそ)岳」として登場します。「閼」も「宗」も それぞれ「アソ」という音をあてた借字(しゃくじ)であり、この時点では漢字に意味的な根拠は ほとんどないと考えられています。

その後、「阿曽(あそ)」という表記も使われるようになります。郡名として「阿蘇」の文字が 記録に現れるのは延暦(えんりゃく)14年(795)であるとされています。現在一般に用いられる 「阿蘇」という二文字表記はこの頃から定着したと考えられています。

語源諸説

「アソ」という音の起源については、以下の諸説が知られています。定説は確立しておらず、 複数の説が並立しています。

神名由来説(記紀伝承)

『日本書紀(にほんしょき)』景行(けいこう)天皇18年6月16日条には次の記述があります。

《阿蘇の国に来られた。その国の野原はひろく、遠くまで人が住んでいる気配はまったく無い。 そこで天皇はおっしゃられた。「この国には人は居ないのだろうか」そのとき、阿蘇津彦(あそつひこ)・ 阿蘇津姫(あそつひめ)の二神が人の姿になって現れ「われら二人あり、何ぞ人無しとおっしゃられるのです」 と言われた。》

この記述に基づき、「何ぞ(なぞ)」という言葉の「何」が「阿(あ)」に通じ、「阿そ」すなわち 「阿蘇」という呼び名が生まれたとする説があります。『日本書紀』によれば、「阿蘇」という 地名の由来は、阿蘇国造(あそのくにのみやつこ)の祖先でもある阿蘇都彦・阿蘇都媛という二神が いたことであるとされています。

また、『肥後国土記』逸文も『日本書紀』とほぼ同じ伝説を記して「阿蘇郡(あそのこほり)」の 地名の由来と説いています。

アイヌ語起源説

「アソ」はアイヌ語に由来するという説があります。アイヌ語の「あ(燃える)」と「そ(床)」を 組み合わせ、「阿蘇山」は「火山」を意味するとされています。この説は火山としての阿蘇の 性格と一致することから広く紹介されてきましたが、アイヌ語と九州地方の地名との言語的な つながりについては、現在の言語学・民族学的な研究では必ずしも支持されていません。 要確認の説として扱うのが適切です。

崩壊地名説(地名学)

「アソ」の地名は火山地帯に多く、「アス」「アズ」に通じる崩壊地名の例が各地に見られ、 この場合も外輪山(がいりんざん)の崖地に由来する地名とする説があります(創拓社『日本地名ルー辞典』 1992年)。浅間山(あさまやま)・足和田山(あしわだやま)・芦ノ湖(あしのこ)など、 「ア+ス・ソ」型の地名が全国の火山地帯に分布することが指摘されており、地名学的な 整合性は高いとされています。

「熊襲(くまそ)」略称説

「アソ」は「クマソ(熊襲)」の略であるとする説もあります。「あ」を接頭語、「そ」を「襲(そ)」 と読み、文献が存在する最も古い時代において阿蘇は「襲族(そぞく)」の支配地であったことに 由来するとする説です。ただしこの説を直接支持する文献的根拠は乏しく、参考的な説として 位置づけられています。

漢字字義による解釈

「阿(あ)」という漢字は、『説文解字(せつもんかいじ)』(後漢時代の漢字字典)によれば 「大陵(たいりゅう)を阿という」とあり、大きな丘・山の曲がった地形を指す字です。 「阿」の偏(へん)である「阝(こざとへん)」は、本来は丘陵や高地の形を表す「阜(おか)」 に由来します。「蘇」は「よみがえる」を意味します。これらの漢字の字義そのものが「阿蘇」 という地に後から意味的に重ねられた可能性も指摘されていますが、あくまでも表記に際して 付与された解釈であり、音の起源を説明するものではありません。

「阿蘇」という名の広がり

「アソ」という地名の音は、九州の阿蘇だけに限られるものではありません。古くは「阿曽」とも 記されました。また、京都府宮津市にある潟湖(かたこ)も「阿蘇海(あそかい)」と呼ばれており、 全国には類似の音を持つ地名が存在しています。これは前述の崩壊地名説・火山地名説の 分布と重なる部分があります。

よくある質問

Q. 「阿蘇」という名前の語源で最も有力な説は何ですか?

A. 現在のところ定説はなく、複数の説が並立しています。文献的な根拠として最も古いのは 『日本書紀』・『肥後国土記』逸文に記された神名由来説です。地名学的には火山地帯の 崩壊地形を示す「アス・アズ」との関連を指摘する説も整合性が高いとされています。

Q. 「閼宗(あそ)」「阿曽(あそ)」「阿蘇(あそ)」の違いは何ですか?

A. いずれも「アソ」という音を漢字で書き表したものです。「閼宗」は土記逸文に見られる 最古の表記で、のちに「阿曽」「阿蘇」へと変化しています。延暦14年(795)ごろには 現在の「阿蘇」という表記が定着したとされています。

Q. アイヌ語起源説は正しいのですか?

A. 「火を吐く山」を意味するアイヌ語との関連は、その火山的性格との一致から広く紹介されて きましたが、アイヌ語と九州地方の地名との直接的なつながりを示す言語学的根拠は現在のところ 確認されていません。諸説のひとつとして紹介されることが多い説です。

関連項目

  • 阿蘇都彦・阿蘇都媛
  • 阿蘇国造
  • 阿蘇神社
  • 肥後国風土記(逸文)
  • 阿蘇カルデラ

参考文献

  • 『日本書紀』景行天皇18年条
  • 『肥後国風土記』逸文(『釈日本紀』所引)
  • 『日本後紀(にほんこうき)』
  • 創拓社『日本地名ルーツ辞典』1992年
  • 熊本日日新聞社『新阿蘇学』
更新日: 2019-09-27 (金) 00:00:00 (2442d)