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阿蘇の自然

テン

概要

テンとは、阿蘇地域を含む九州の森林から草原周辺にかけて広く生息する、食肉目(しょくにくもく)イタチ科の中型哺乳類です。日本本土に分布する個体群は正式にはホンドテンと呼ばれ、学名はMartes melampus melampusです。単独で生活する夜行性の動物で、木登りと跳躍を得意とし、阿蘇の森林草原が接する環境で昆虫やネズミ類、果実などを幅広く食べる雑食性の捕食者として位置づけられます。

形態・特徴

体長は40〜55cm程度、尾長は15〜25cm程度、体重は0.9〜2kgほどです。体は細長く、四肢は比較的短く、鼻先が尖り、耳は幅広くて短いのが特徴です。前後の足裏に毛が密生しているため木登りが巧みで、木から木へ大きく跳躍して移動することもできます。

毛色は個体や季節によって差があり、大きく分けて2つの型が知られています。

  • キテン(黄貂(きてん)):夏毛は全身が褐色で、のどに大きなオレンジ色の斑紋があります。冬毛になると四肢が黒褐色、頭部と尾の先が白くなり、全身が鮮やかな黄色に覆われます。
  • スステン(煤貂(すすてん)):冬でも夏毛に近い黒褐色の体色を保ち、尾の先は白く、のどはオレンジ色を帯びます。

キテンは東北地方に多く見られる一方、四国・九州にも分布しており、阿蘇地域を含む九州ではキテン・スステンの両方が確認されています。

生息・分布

ホンドテンは本州・四国・九州に分布する日本固有の亜種で、北海道には毛皮用に飼育されていた個体が逃げ出すなどして定着した移入個体群がいます。阿蘇地域では、外輪山や中央火口丘(ちゅうおうかこうきゅう)周辺の森林、二次林、渓流沿いなど、樹洞(じゅどう)や岩の隙間を隠れ場所にできる環境に生息していると考えられます。昼間は樹洞や岩穴で休み、夜間に活動する夜行性で、通常は単独で行動します。

食性は雑食で、昆虫類、ネズミ類などの小型哺乳類、鳥類両生類、爬虫類のほか、果実や種子も食べます。繁殖期は6〜7月頃とされ、1産1〜2子、寿命は10年前後と考えられています。

なお、国内には本種のほか、北海道にクロテン(Martes zibellina)が分布します。クロテンは北ヨーロッパからシベリア、カムチャッカにかけて広く分布する別種で、四肢と尾が黒っぽく頭部が白っぽい点でホンドテンと区別できます。また、長崎県対馬(つしま)にはシマテン(Martes melampus tsuensis)という亜種が分布し、国の天然記念物に指定されていますが、阿蘇地域には分布しません。

阿蘇との関わり

阿蘇の草原森林生態系におけるテンの生態を直接扱った調査は現時点で確認できていませんが、阿蘇に隣接し、同じく火山性の草原森林が接する大分県久住(くじゅう)高原では、糞分析によるテンの食性調査が行われています(荒井ほか、2003)。この調査では、昆虫類・哺乳類・甲殻類を中心とした動物質と、多様な植物質の両方が季節を通じて確認されており、テンが草原森林の境界域で幅広い食物を利用する捕食者であることが示されています。阿蘇地域も野焼きによって維持される草原森林が入り組んだ地形を持つため、同様の生態的な役割を担っていると考えられます。

テンは種子を含んだ果実を食べることから、糞を通じた種子散布者としての役割も指摘されており、草原森林境界域の植生維持に間接的に関わっている可能性があります。

観察ポイント

夜行性で警戒心が強いため、日中に直接姿を見る機会は多くありません。生息の手がかりとしては、決まった場所に排泄する「溜め糞(ためふん)」や、雪上・泥上に残る足跡、樹洞から出入りする様子などが挙げられます。自動撮影カメラの記録では、冬季に樹液を舐めに訪れる様子や、ムササビなどの樹洞営巣性動物と生息場所を共有する様子も報告されています。

観察を試みる場合は、早朝や夕方以降の時間帯に、森林草原の境界部や渓流沿いの遊歩道を静かに歩くとよいとされます。野生動物であるため、餌付けや巣穴への接近は行わないよう注意が必要です。

保全状況

熊本県が令和6年(2024)10月に発行した『レッドリストくまもと2024-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-』の哺乳類レッドリストには、テン(ホンドテン)は掲載されておらず、県内における絶滅のおそれが高い種としては扱われていません(同じイタチ科のニホンイタチは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定されています)。

一方で、テンは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」に基づく狩猟鳥獣に指定されており、対馬に分布するシマテンを除き、狩猟期間中は許可を得た狩猟者による捕獲が認められています。屋根裏への侵入や農作物・家禽への被害が報告される地域もあり、鳥獣保護管理法の規定に基づかない無許可の捕獲はできません。

よくある質問

Q. テンとイタチの違いは何ですか?
A. どちらも食肉目イタチ科に属する近縁な動物ですが、テンの方が体が大きく、尾も太く長い傾向があります。毛色も、テンは黄色や黒褐色の地に喉のオレンジ色の斑紋が目立つのに対し、イタチはより単調な茶色系の体色をしています。

Q. テンとクロテンは同じ動物ですか?
A. 異なる種です。テン(ホンドテン)は本州・四国・九州に分布する日本固有の亜種であるのに対し、クロテンは北海道に分布し、ユーラシア大陸北部にかけて広く生息する別種です。

Q. 阿蘇でテンを見ることはできますか?
A. 夜行性で警戒心が強いため、日中に出会う機会は多くありませんが、外輪山や中央火口丘周辺の森林には生息していると考えられます。足跡や溜め糞、自動撮影カメラの記録などから生息が確認される場合があります。

Q. テンは熊本県内で絶滅危惧種に指定されていますか?
A. 『レッドリストくまもと2024』の哺乳類レッドリストにテンは掲載されておらず、県内では絶滅のおそれが高い種としては扱われていません。ただし、狩猟鳥獣に指定されているため、無許可での捕獲はできません。

関連項目

  • ニホンイタチ(内部リンク候補・未作成)
  • 阿蘇くじゅう国立公園(内部リンク候補・未作成)
  • 野焼き
  • 阿蘇の草原

参考文献

  • 荒井秋晴・足立高行・桑原佳子・吉田希代子(2003)「久住高原におけるテンMartes melampusの食性」『哺乳類科学』43(1):19-28
  • 熊本県環境生活部『レッドリストくまもと2024-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-』令和6年(2024)10月
  • 環境省「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に基づく狩猟鳥獣一覧

 

更新日: 2016-02-08 (月) 00:00:00 (3830d)