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文化・歴史

阿蘇の語源

阿蘇という名前の語源

概要

「阿蘇(あそ)」という地名の語源には、複数の説が存在します。 最も古い根拠とされるのは『日本書紀(にほんしょき)』景行(けいこう)天皇紀に記された 地名起源(ちめいきげん)説話であり、この地名がなぜ「阿蘇」と呼ばれるようになったかを 伝える重要な一次史料です。


『日本書紀』の記述

『日本書紀』巻第四・景行(けいこう)天皇十八年六月の記述に、 「阿蘇」という地名の起源を説明する説話が収められています。

《到阿蘇国也。其国郊原曠遠。不見人居。天皇曰。是国有人乎。 時有二神。曰阿蘇都彦。阿蘇都媛。忽化人以遊詣之曰。 吾二人在。何無人耶。故号其国曰阿蘇。》

現代語に訳すと、景行天皇が九州を巡幸(じゅんこう)して阿蘇国に到ったとき、 広々とした野原に人の住む気配が見えなかったため、「この国に人はいるか」と尋ねました。 すると阿蘇都彦(あそつひこ)・阿蘇都媛(あそつひめ)という二神がたちまち人の姿に変わって 天皇のもとに現れ、「われら二人がここにいます。どうして人がいないことがありましょうか」 と答えました。この出来事にちなんで、その国を「阿蘇」と名づけたとされています。

この記述は養老(ようろう)4年(720)に完成した『日本書紀』に収められており、 「阿蘇」という地名の文献上の初出に相当します。 ただし、この説話は神話・伝承の性格が強く、文字通りの史実として受け取るのではなく、 地域の人々が「阿蘇」という地名をどう語り継いできたかを示す記録として理解されています。


『肥後国風土記』の記述

奈良時代初期(700年代前半)に編纂(へんさん)されたとみられる 『肥後国(ひごのくに)土記(ふどき)』の逸文(いつぶん)(『釈日本紀(しゃくにほんき)』に引用) にも、阿蘇に関する記述が見られます。 この逸文では「閼宗(あそ)の縣(あがた)」という表記が用いられており、 「阿蘇」を「閼宗」と記した例として注目されています。


語源の諸説

「阿蘇」という語の起源については、学術的に定まった見解はなく、複数の説が併存しています。

① 二神の名前に由来するという説(地名起源説話) 『日本書紀』の説話のとおり、阿蘇都彦(あそつひこ)・阿蘇都媛(あそつひめ)という 夫婦神の名から地名が生まれたとする解釈です。 『古事記伝(こじきでん)』では阿蘇都彦を阿蘇神社の主祭神・ 健磐龍命(たけいわたつのみこと)と同一視する立場もとられています。

② 火山・噴気に由来するという説 「アス(噴出する・荒々しい)」など、古代日本語の火山活動を表す言葉に由来するとする説も あります。中国正史の『隋書(ずいしょ)』倭国伝(636年)には「有阿蘇山、其石無故火起接天」 として阿蘇山の噴火記録が残されており、「阿蘇」という名称が 火山活動と深く結びついていた可能性を示しています。

③ 上代語・地形語に由来するという説 「アソ」が上代(じょうだい)日本語で「浅い」「広い野原」「ありそ(礒)」を意味していた とする地形語起源説も提唱されています。 阿蘇谷(あそだに)の広大な草原地形との関連が指摘されることがあります。

これらの説は相互に排他的ではなく、神話的説明と言語的分析の両面から 阿蘇という地名の由来は研究が続けられています(『新阿蘇学』熊本日日新聞社)。


古代の地名表記の変遷

「阿蘇」の表記は時代により異なります。 『肥後国土記』逸文では「閼宗(あそ)」と記され、 奈良時代の国史(『続日本後紀(しょくにほんこうき)』ほか)では「阿蘇」の表記が定着していきます。 延暦(えんりゃく)13年(794)の記録には「阿蘇社」への寄進が見え、 この頃までには「阿蘇」という表記・読みが広く使われていたと考えられています。


よくある質問

Q. 「阿蘇」という地名の由来は何ですか? A. 最古の文献根拠は『日本書紀』(720年)の説話で、 景行天皇が「この国に人はいるか」と尋ねたところ、阿蘇都彦・阿蘇都媛の二神が現れたことから 「阿蘇」と名づけたとされています。ただし語源は確定しておらず、 火山・噴気を表す言葉や地形語に由来するという説も並存しています。

Q. 「阿蘇都彦(あそつひこ)」とはどのような神ですか? A. 『日本書紀』に登場する神で、阿蘇都媛(あそつひめ)とともに阿蘇の地に宿った神とされます。 一説では阿蘇神社の主祭神である健磐龍命(たけいわたつのみこと)と同一視されますが、 『日本書紀』本文には両者を同一とする記述はなく、学術的には別神格として扱う見方もあります。

Q. 「閼宗(あそ)」という表記はどこから来ていますか? A. 奈良時代初期の『肥後国土記』逸文に見える古い表記です。 「閼宗」も「あそ」と読まれており、後の「阿蘇」と同じ地域を指すと解釈されています。 表記は「阿蘇」に統一される以前の複数の漢字があてられていた時代のものです。

Q. 「阿蘇」の語源は確定していますか? A. 確定した学説はありません。神話的説話・火山語源説・地形語源説の三系統が並立しており、 研究者によって見解が異なります。百科事典として現時点では「複数の説がある」 という事実を記すにとどめるのが適切です。


参考文献

  • 『日本書紀』巻第四・景行天皇十八年六月条(養老4年〔720〕成立)
  • 『肥後国風土記』逸文(『釈日本紀』巻第十所引)
  • 熊本日日新聞社発行『新阿蘇学』
  • 『くらしのあゆみ 一の宮 ―一の宮町 伝統文化研究会―』
  • 熊本県教育会阿蘇郡支会『阿蘇郡誌』(大正15年〔1926〕刊)
  • 国立国会図書館デジタルコレクション所収版
更新日: 2013-07-23 (火) 00:00:00 (4715d)