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生活

3月の忘れ雪

概要

3月の忘れ雪(わすれゆき)とは、阿蘇地域に伝わる気象(きしょう)・農事(のうじ)のいわれの一つで、3月に入り気候が暖かくなった後、思いがけず寒さが戻って降る雪のことをいいます。「忘れ雪」自体は「名残雪(なごりゆき)」「終雪(しゅうせつ)」とも呼ばれる、その年最後に降る雪を指す春の季語であり、阿蘇ではこの言葉が農事に関わる戒めの言い伝えとして地域に定着しています。『くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-』に収録されています。

時代背景

阿蘇谷(あそだに)・南郷谷(なんごうだに)は標高およそ400〜800メートルの高冷地(こうれいち)に位置し、稲作(いなさく)や畑作(はたさく)を営む農家にとって、春先の急激な冷え込みは苗代(なわしろ)づくりや種まきの時期を左右する重要な関心事でした。阿蘇に伝わる気象・農事のいわれ気象・農事のいわれ)には、「2月の寒戻(かんもど)り」「4月のサド倒し」など、季節の変わり目の油断できない寒さを戒める言い伝えが数多く記録されており、「3月の忘れ雪」もこの系譜に連なる表現の一つです。農作業の暦(こよみ)を持たない時代、こうした言い伝えは経験に基づく気象の目安として、世代を超えて口伝えされてきたと考えられています。

具体的な様子

「忘れ雪」という言葉自体は阿蘇に限らず全国的に使われる春の季語で、江戸時代の俳諧(はいかい)集『雑俳(ざっぱい)・続玉柏(ぞくたまかしわ)』(1744年)にも用例が残るなど、古くから親しまれてきた表現です。冬の寒さが過ぎ、暖かさに気を緩めた頃にふと降る雪を、季節への名残惜しさを込めて「忘れ雪」と呼んだものとされています。

阿蘇地域での使われ方を示す資料として、日本造園学会に発表された防災教育プログラムに関する研究では、『阿蘇町史』を出典として「三月の忘れ雪(今の四月の雪)」という表現が、気象(雪)に関する伝承の一例として紹介されています。これは、阿蘇では3月に限らず、より季節の進んだ4月頃までこうした季節外れの雪への注意が語り継がれてきた可能性を示す記述ですが、原典(『阿蘇町史』)そのものは未確認であり、断定はできません。

現在との比較

気象庁が阿蘇山(あそさん)山頂で観測した平年値(2003年から2017年の13年間平均、参考値)によれば、雪の終日は4月16日です(気象庁「過去の気象データ検索」)。この数値は山頂の観測点によるもので、阿蘇谷など盆地部の気候とは異なりますが、阿蘇地域では3月から4月にかけて季節外れの降雪が今日でも珍しくないことを示す一つの目安になります。

一方で、「3月の忘れ雪」という言い回し自体が現在の阿蘇でどの程度使われているかを示す資料は確認できておらず、農業技術の変化や生活様式の変化にともない、日常語としては使われる機会が減っている可能性があります。

よくある質問

Q. 「忘れ雪(わすれゆき)」とはどのような意味ですか? A. 春になって暖かくなった後、思いがけず寒さが戻って降る雪のことです。俳句では春の季語として扱われ、「名残雪(なごりゆき)」「終雪(しゅうせつ)」とも呼ばれます。

Q. 「名残雪」「終雪」との違いはありますか? A. いずれも同じ現象を指す同義語です。阿蘇では農事のいわれの一つとして「忘れ雪」という呼び方が『くらしのあゆみ 阿蘇』に記録されています。

Q. なぜこうした言い伝えが農家にとって重要だったのですか? A. 阿蘇谷・南郷谷は高冷地にあり、春先の遅い寒さが苗代づくりや種まきの時期に影響したためです。経験に基づく気象の目安として言い伝えられてきたと考えられています。

関連項目

参考文献

更新日: 2010-03-20 (土) 00:00:00 (6027d)