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阿蘇の自然

布田川断層帯(ふたがわだんそうたい)

布田川断層帯(ふたがわだんそうたい)とは、熊本県阿蘇郡南阿蘇村の阿蘇外輪山(あそがいりんざん)西側斜面から宇土(うと)半島先端に至る活断層帯(かつだんそうたい)のことです。全体の長さは約64km以上と推定され、九州最長の活断層帯のひとつとされています。平成28年(2016)熊本地震の本震(マグニチュード7.3)は、この断層帯の活動によって引き起こされたと評価されており、阿蘇地域の地史と防災を理解するうえで不可欠な地質構造です(地震調査研究推進本部「布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)」2013年)。

位置と走向

布田川断層帯は、熊本県南阿蘇村から上益城郡益城町木山付近を経て、宇土半島先端まで、おおむね東北東(ENE)〜西南西(WSW)方向に延びています。一般走向は北60度東(N60°E)、傾斜は北に約60度の右横ずれ断層であり、南東側が相対的に隆起する上下成分を伴います(産業技術総合研究所「活断層データベース」)。

西南日本の地質構造を南北に区分する臼杵(うすき)〜八代(やつしろ)構造線(九州における中央構造線に相当)を横断して延びるのが、布田川断層帯と日奈久(ひなぐ)断層帯の大きな地質学的特徴です(田口清行「布田川断層・日奈久断層および臼杵:八代構造線の観察」『熊本地学会誌』137号、2004年)。

断層帯の区間構成

布田川断層帯は、断層線の分布から以下の3つの区間に区分されています(地震調査研究推進本部、2013年)。

布田川区間(ふたがわくかん)
南阿蘇村から益城町木山付近に位置し、長さ約19kmと推定されます。阿蘇地域に隣接する最も重要な区間であり、平成28年(2016)熊本地震の震源断層となりました。右横ずれを主体として、一部では複数の断層が並走し小規模な地溝帯(ちこうたい)を形成しています。

宇土区間(うとくかん)
益城町木山付近から宇土市中心部に至る長さ約20kmの区間です。地下に伏在(ふくざい)する活断層として、重力異常の急変帯の分布などから新たに推定されました。

宇土半島北岸区間(うとはんとうほくがんくかん)
宇土市住吉町から宇土半島北岸に沿って先端に至る長さ約27km以上の区間です。宇土区間と同様に地下に伏在する活断層として推定されており、南東側が隆起する上下成分を伴う可能性があります。

断層の活動履歴

過去の活動間隔
布田川区間の過去の活動間隔は、当初8,100〜26,000年程度と推定されていました。しかし、熊本地震後に実施されたトレンチ(溝掘り)調査の結果、実際の活動間隔は1,500〜2,000年程度である可能性が示されており、従来の推定よりかなり短い可能性があります(熊本地方気象台「熊本地震から10年」特設サイト、2026年)。

この再評価は、断層が現在の地震後経過率0.00であることと整合しており、将来の活動可能性を検討するうえで重要な知見です。

最新活動時期と変位量
白川左岸の露頭調査ではBC4,772年の地層が変位を受けていることが確認され、田中トレンチ調査ではBC270年の地層に覆われることが確認されています(産業技術総合研究所「活断層データベース」)。産総研のデータによれば、活動セグメントの平均変位速度は0.9m/千年、単位変位量は3.1mと評価されています。

明治22年(1889)熊本地震との関係
明治22年(1889)に発生した熊本地震(マグニチュード6.3)は、震源域が平成28年(2016)熊本地震とほぼ同一の範囲とされており、布田川断層帯の過去の活動記録として関連性が指摘されています。

平成28年(2016)熊本地震との関係

平成28年(2016)4月16日に発生した本震(マグニチュード7.3)は、地震調査研究推進本部が「布田川断層帯の布田川区間を含む約27kmの活動によるもの」と評価しました。さらに、4月14日の前震(マグニチュード6.5)は南接する日奈久断層帯の高野−白旗(しらはた)区間の活動によるものとされており、2つの断層帯が連動するように活動したと考えられています(地震調査研究推進本部、2016年4月17日発表)。

本震で活動した断層の範囲は想定より東西にそれぞれ数kmずつ長く、東端は阿蘇山外輪山(カルデラ)まで達していたことが後の調査で明らかになりました。これは、それ以前に「北東端」とされていた位置から、さらに北東の阿蘇カルデラ内に約3.5kmの地震断層が新たに確認されたことを示しています(熊本地方気象台「熊本地震から10年」特設サイト)。

地表地震断層と天然記念物指定

本震の際、熊本県嘉島町から益城町・西原村にかけて、ほぼ連続的に長さ約31kmにわたって地表地震断層が露出しました。益城町杉堂(すぎどう)地区や堂園(どうぞの)地区では北東〜南西方向の右横ずれが確認され、最大変位量約2.5mが堂園地区で記録されています。また谷川(たにごう)地区では、卓越する右横ずれ断層と交差する北西〜南東方向の左横ずれ断層も確認されました(文化庁「国指定文化財等データベース」)。

益城町はこれらの地表地震断層を学術的・防災的遺構として保存することを決定し、杉堂・堂園・谷川の3地点を文化財として保護しました。平成30年(2018)2月13日、国はこれら3地点を「学術上価値が高く、地震の被害を将来に伝える災害遺構としても貴重である」として国指定天然記念物「布田川断層帯」に指定しました(文部科学省告示第21号)。

阿蘇ジオパークにおける位置づけ

布田川断層帯の布田川区間は、阿蘇カルデラの形成史とは異なる、より新しい地殻変動(テクトニクス)を示す地質資源です。阿蘇地域ではカルデラ形成に関わる火山地形や溶岩が広く知られていますが、布田川断層帯はそれらとは別に、「現在進行中の地殻変動」を理解するための重要な鍵となります。

南阿蘇村では、黒川地区の地表地震断層や旧東海大学阿蘇キャンパス(断層が建物の真下を通過した記録)などを含む震災遺構が「熊本地震 震災ミュージアム」として整備されており、断層と地震の関係を現地で学ぶことができます(南阿蘇村「熊本地震 震災遺構ガイドマップ」第2版、2021年)。

よくある質問

Q. 「布田川断層」と「布田川断層帯」は同じものですか?
A. 厳密には異なります。「布田川断層帯」は地震調査研究推進本部が設定した断層帯の正式名称で、布田川区間・宇土区間・宇土半島北岸区間の3区間から構成されます。「布田川断層」は布田川区間を指すことが多く、地域の慣用的な呼び名として用いられることもあります。

Q. 布田川断層帯は阿蘇市内にありますか?
A. 布田川断層帯の布田川区間は南阿蘇村から益城町にかけて延び、阿蘇市の行政区域内ではなく、南阿蘇村黒川地区、河陽地区など)を通過します。平成28年(2016)熊本地震では断層の東端がアソカルデラ内まで達したことが確認されており、阿蘇市内での地表地震断層も確認されています。

Q. 布田川断層帯は将来また活動しますか?
A. 布田川区間は平成28年(2016)熊本地震で活動したため、現在の地震後経過率は0.00であり、今後30年以内の活動確率はほぼ0%と評価されています。ただし最新のトレンチ調査では活動間隔が従来の推定より短い可能性が示されており、長期的な監視が続けられています(地震調査研究推進本部)。

Q. 国の天然記念物に指定されているのはなぜですか?
A. 熊本地震で出現した地表地震断層が「学術上価値が高く、地震の被害を将来に伝える災害遺構として貴重」であるとして、平成30年(2018)2月13日に国の天然記念物に指定されました。指定箇所は益城町内の3地点(杉堂・堂園・谷川)です(文化庁)。

参考文献

 

更新日: 2019-02-19 (火) 00:00:00 (2678d)