概要
アソノコギリソウ(阿蘇鋸草(あそのこぎりそう))とは、キク科ノコギリソウ属に属する多年草(たねんそう)で、阿蘇地域の草原(そうげん)に自生する固有亜種(こゆうあしゅ)です。
学名は Achillea alpina subsp. subcartilaginea(Heimerl)Kitam.。 九州の火山性草原(かざんせいそうげん)に生育し、国内の自生地は九州にほぼ限られています(三河の植物観察・北海道大学植物標本庫等)。 草丈(くさたけ)は40〜70cm程度で、夏から秋にかけて白色または淡紅色(たんこうしょく)の小花(こばな)を密な散房花序(さんぼうかじょ)に多数つけます。 葉(は)の縁(ふち)が細かく鋸歯状(のこぎりじょう)に分裂(ぶんれつ)する特徴がそのまま和名の由来となっています。
形態・特徴
茎葉(くきは)は無柄(むへい)で長楕円状線形(ながだえんじょうせんけい)、縁(ふち)は細かい鋸の歯のような形に切れ込み(鋸歯(のこぎりば)状分裂)、基部(きぶ)は茎を抱くように広がります(半抱茎(はんほうけい))。 頭花(とうか)は茎の先端に密な散房花序をつくり、周辺の舌状花(ぜつじょうか)は5〜6個。 小舌(しょうぜつ)は白色で、まれに淡紅色を帯びます。総苞(そうほう)は鐘状球形。
同属の類似種との見分け方
阿蘇の草原では、外来種(がいらいしゅ)のセイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium L.、ヨーロッパ原産)も同時期に開花します。 両者の見分け方は葉の切れ込みの細かさにあります。 アソノコギリソウは葉の切れ込みが比較的浅く大まかであるのに対し、 セイヨウノコギリソウは葉が2回羽状に非常に細かく深く切れ込んでいます。
| 比較項目 | アソノコギリソウ | セイヨウノコギリソウ |
|---|---|---|
| 原産・分布 | 九州の火山性草原(在来種) | ヨーロッパ原産(外来種) |
| 葉の切れ込み | 浅め・大まか | 非常に細かく深い(2回羽状) |
| 花色 | 白〜淡紅色 | 白〜淡紅色 |
| 草丈 | 40〜70cm | 60〜80cm |
生育・分布
九州に分布し、阿蘇地域を中心とする山地の草原に生育します。 火山性草原に生育し、生育地や個体数は比較的多いとされています。 大分県のレッドデータブック(2022年)では、野焼きの停止による植生遷移の進行や人工牧野への改変などで減少傾向にあること、また人による採取の影響も懸念されています。
阿蘇以外では、大分県・九重火山群および由布・鶴見火山群周辺、祖母・傾山地周辺などにも分布が確認されています(レッドデータブックおおいた2022)。
阿蘇の草原との関わり
阿蘇の草原は、毎年3月の野焼き(のやき)と4〜12月の放牧(ほうぼく)、8〜9月の輪地切(わちぎ)りによって維持されてきた半自然草原(はんしぜんそうげん)です。 アソノコギリソウは阿蘇市の草原デジタルずかん(ASO環境共生基金事業)にも記載されているように、放牧地(ほうぼくち)および採草地(さいそうち)の両環境に生育することが確認されています。
野焼きによって樹木の侵入が抑えられ、日当たりの良い草原が維持されることが、アソノコギリソウをはじめとする草原性植物の生育を支える基盤となっています。 阿蘇の草原面積はかつてより大幅に減少しており、担い手不足や利用形態の変化による草原の管理放棄が課題となっています。 草原が消滅すると、アソノコギリソウの生育環境も失われることになります。
開花と観察の時期
| 季節 | 状態 |
|---|---|
| 3〜4月 | 野焼き後に地下茎(ちかけい)から新芽が展開 |
| 5〜6月 | 葉が茂り茎を伸ばす |
| 7〜9月 | 白〜淡紅色の花が開花(最盛期は8月) |
| 10〜11月 | 結実・地上部が枯れ始める |
| 12〜2月 | 地上部は枯れ、地下茎で越冬 |
草原の解放されたエリアや牧野の草地では、7月中旬頃から白い小花の群れが目に入るようになります。 観察の際は、採取せずその場で鑑賞するにとどめてください。
保全状況
大分県レッドデータブック(2022年)において準絶滅危惧に準じる扱いで掲載されており、野焼きの停止による植生遷移の進行や人工牧野への改変などで減少の傾向にあること、また人による採取も懸念されています。 熊本県のレッドリストくまもと2024では要注目種(AN)に指定されています(熊本県、2024年)。
阿蘇における草原の保全活動(野焼き支援ボランティア、牧野組合による管理)が、アソノコギリソウをはじめとする草原性植物の保全にも直結しています。
よくある質問
Q. アソノコギリソウはどこで見られますか? A. 阿蘇市内の草原(放牧地・採草地)や、くじゅう連山周辺の火山性草原で見ることができます。開花期は7〜9月です。
Q. セイヨウノコギリソウとどう見分けるのですか? A. 葉の切れ込みが判断の基準になります。アソノコギリソウは葉の切れ込みが浅く大まかで、セイヨウノコギリソウは2回羽状に非常に細かく切れ込んでいます。同じ草原で両種が並んで咲くこともあります。
Q. 採取してもよいですか? A. 大分県レッドデータブック(2022年)では人による採取が個体数減少の一因として懸念されています。採取は避け、その場で観察・撮影にとどめてください。
Q. 野焼きとアソノコギリソウはどう関係しているのですか? A. 野焼きによって草原が維持されることが、アソノコギリソウの生育環境を保つ根本的な条件となっています。野焼きが行われなくなると、樹木が侵入して草原が失われ、アソノコギリソウも姿を消します。
関連項目
- 草原
- 野焼き
- ヒゴタイ(阿蘇の草原に生育する希少植物)
- ミヤマキリシマ
- 阿蘇ジオパーク
参考文献
- 三河の植物観察「ノコギリソウ属(Achillea)」(https://mikawanoyasou.org/data/nokogirisou.htm)
- レッドデータブックおおいた2022「アソノコギリソウ」(https://www.rdb-oita.jp/data/16883/、2026年6月閲覧)
- 熊本県『レッドリストくまもと2024 ―熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物―』(2024年)
- 阿蘇市草原デジタルずかん(ASO環境共生基金事業)「アソノコギリソウ」(http://www.city.aso.kumamoto.jp/asokikin/zukan/200)
- 環境省「阿蘇くじゅう国立公園 野焼きと草原維持の困難性」(https://www.env.go.jp/park/aso/、2026年6月閲覧)
- 阿蘇デジタル博物館