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生活

ウドンゲの花が咲いたら良い事がある

概要

ウドンゲの花が咲いたら良い事がある」は、熊本県阿蘇市に伝わる俗信(ぞくしん)です。電灯(でんとう)の笠(かさ)などに、花のおしべのような白い房状(ふさじょう)の物がつくと吉事(きちじ)が訪れるとされてきました。この「花」の正体は、クサカゲロウ科の昆虫が産みつけた卵(たまご)であり、実在の植物ではありません。

由来・起源

「優曇華(うどんげ)」という名称の由来

「優曇華(うどんげ)」は、仏典(『法華経(ほけきょう)』など)に由来する言葉です。梵語(ぼんご)の「ウドゥンバラ」を語源とし、3000年に一度だけ花を咲かせ、その開花は如来(にょらい)の降臨(こうりん)など極めて稀(まれ)な出来事の前兆(ぜんちょう)であるとされてきました。

日本では、この伝説の花になぞらえて、クサカゲロウ科の昆虫が産みつけた卵の集まりを「優曇華(うどんげ)の花」あるいは「うどんげの花」と呼ぶ俗信が各地に残っています。長い糸状の柄(え)の先に白い球形の卵を一つずつつけ、それが数個から数十個まとめて産みつけられるため、遠目には房状の白い花のように見えることが、この呼び名の由来と考えられています。

正体はクサカゲロウの卵

ウドンゲの花」の正体は、アミメカゲロウ目クサカゲロウ科に属する昆虫の卵です。クサカゲロウは体長1〜2センチメートルほどの淡緑色の昆虫で、英名では繊細な翅(はね)の形状から「lacewing(レースの翅の虫)」、幼虫がアブラムシ類を好んで捕食することから「aphis-lion(アブラムシのライオン)」とも呼ばれます。日本国内には約40種が生息しているとされています。

メス成虫は腹部の先端から粘液(ねんえき)の糸を伸ばし、その先端が固まって細い柄となったところに、長径1ミリメートルほどの卵を一つずつ産みつけます。この産卵行動を繰り返すことで、柄付きの卵が房状に並び、遠目には花のように見える独特の姿ができあがります。幼虫はアブラムシなどの害虫を捕食するため、農業においては益虫(えきちゅう)として扱われています。

全国的な俗信との比較

ウドンゲの花(うどんげの花)」にまつわる俗信は、阿蘇に限らず日本各地に広く分布しています。国際日本文化研究センター(日文研)が公開する「怪異(かいい)・妖怪(ようかい)伝承データベース」には、以下のような事例が収録されています。

地域 年代(西暦) 内容
京都府京都市右京区 昭和11年(1936) 優曇華の花が咲くと貧乏になるという
大阪府三島郡豊川村 昭和7年(1932) うどんげが咲くと家に凶事がある。床柱に咲くとその家は滅びるという
栃木県 昭和8年(1933) 白く咲くのは盗難、黒く咲くのは死去、赤く咲くのは幸福の前兆とされる
栃木県 昭和10年(1935) うどんげの花が咲くと人が死ぬという
和歌山県 昭和42年(1967) うどんげの花が咲くと不幸が訪れるという伝承がある

これらの事例に見られるように、全国的には「うどんげの花」を凶兆(きょうちょう)(不幸の前兆)とする伝承が優勢です。これに対し、阿蘇市に伝わる「ウドンゲの花が咲いたら良い事がある」は、同じ現象を**吉兆(きっちょう)**として捉える点で対照的です。栃木県の事例のように、花の色によって吉凶(きっきょう)が分かれるとする地域もあり、俗信の解釈は地域ごとに大きく異なっていたことがうかがえます。

現在の状況

この俗信は、阿蘇市に伝わる生活文化の記録である『くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-』に収録されています。同書に記録された時点でどの程度の世代・地域で語られていたかについては、現時点で詳細な裏付けが取れていません。今日、日常生活で電灯の傘にクサカゲロウの卵を見かける機会自体が、住宅事情の変化(白熱灯から蛍光灯・LEDへの移行、気密性の高い住宅の普及等)により減少していると考えられますが、この点についても一次資料による確認が必要です。

よくある質問

Q. ウドンゲの花とは、実際には何ですか? A. 実在する花ではなく、クサカゲロウ科の昆虫が産みつけた卵の集まりです。糸状の柄の先に白い卵が房状につき、花のように見えることからこう呼ばれています。

Q. なぜ「優曇華(うどんげ)」という名前がついたのですか? A. 仏典に由来する、3000年に一度だけ咲くとされる伝説の花「優曇華」になぞらえて名づけられたと考えられています。

Q. 阿蘇以外の地域でも同じように「良い事がある」とされていますか? A. いいえ。国際日本文化研究センターの妖怪伝承データベースによれば、京都府・大阪府・栃木県・和歌山県などでは、うどんげの花はむしろ不幸や死の前兆(凶兆)として伝えられており、阿蘇の伝承はそれとは対照的な吉兆として位置づけられています。

関連項目

参考文献

  • 『くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-』
  • 国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」(https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/)
  • 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)ウェブサイト掲載記事「うどんげの花」(クサカゲロウの生態解説)
更新日: 2010-04-20 (火) 00:00:00 (5996d)