⚠️ 注意:全草有毒
クララは全草(ぜんそう)にアルカロイド系の毒成分マトリンを含む有毒植物(ゆうどくしょくぶつ)です。 根は特に毒性が強く、誤って服用すると大脳の運動野を麻痺(まひ)させ、痙攣(けいれん)や呼吸停止に至る危険があります。 素人による採取・服用・調理は絶対に行わないでください。
概要
クララ(眩草(くららぐさ)・苦参(くじん))とは、マメ科クララ属に属する大型の多年草(たねんそう)で、日当たりのよい草原や山野の道ばたに大株になって自生します。
学名は Sophora flavescens。 別名はクサエンジュ(草槐(くさえんじゅ))・キツネノササゲ・ヒロハクララ。 生薬名(しょうやくめい)は苦参(くじん)といい、乾燥させた根が漢方薬として用いられてきました。
和名の「クララ」は、根を噛むと目がくらくらするほど苦いことから「眩草(くららぐさ)」と呼ばれ、それが転じたものとされています。
阿蘇の草原においては、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)オオルリシジミ(熊本県特定希少野生動植物)の唯一の食草(しょくそう)として、草原生態系(そうげんせいたいけい)のなかで特別に重要な役割を担っています。
形態・特徴
和名:眩草・苦参 学名:Sophora flavescens
分類: マメ科クララ属 多年草 草丈: 50〜150cm
茎は葉とともに短毛が多く、葉は互生(ごせい)し、奇数羽状複葉(きすうはじょうふくよう)で長さ15〜25cmになります。 小葉(しょうよう)は7〜20対あり、長さ2〜4cmの狭卵形(きょうらんけい)です。 茎の先や枝先に20〜25cmの総状花序(そうじょうかじょ)を出し、白色〜淡黄色の蝶形(ちょうけい)の花をつけます。 花の長さ1.5〜1.8cm、萼(がく)は鐘形(しょうけい)で5裂しています。 果実(かじつ)は莢果(さやか)で種子は4〜5個入り、長さ7〜8cm。成熟しても自然には裂開しません。
茎の下部は次第に木質化(もくしつか)し、根は肥大して強い苦みを帯びます。
分布・生育環境
国内分布: 本州・四国・九州 国外分布: 中国・朝鮮半島・シベリア
日当たりのよい山麓(さんろく)・草地・川原などに生育します。 大株になって自生するため、草原内で存在感のある植物です。
日本では草原環境が農業形態の変化によって衰退しており、自生地がかなり減少しています(Wikipedia「クララ」)。 阿蘇では牧野組合(まきのくみあい)による野焼き(のやき)と放牧(ほうぼく)が継続されているため、クララの生育地が今も維持されています。
開花期
6〜7月
白色〜淡黄色の蝶形花が総状花序に密につき、草原の中で目立ちます。 まれに淡紫色を帯びることもあります。
阿蘇における生態的役割:オオルリシジミの食草
クララは阿蘇の草原生態系において、絶滅危惧種オオルリシジミ(九州亜種 Shijimiaeoides divinus asonis)の唯一の食草として知られています。
オオルリシジミの幼虫(ようちゅう)は、クララの花芽(はなめ)と蕾(つぼみ)のみを食べて成長します。 阿蘇の放牧地では、牛がクララを食べないため草地内にそのまま生育し、オオルリシジミの産卵・幼虫の生育の場となっています(阿蘇地域世界農業遺産推進協会)。
野焼きが行われなくなると草原が失われてクララも衰退し、結果としてオオルリシジミも生息できなくなります。 阿蘇の草原管理とクララの保全、そしてオオルリシジミの存続は、三者が不可分に結びついた関係にあります。
利用
⚠️ 毒性について(最重要)
クララは全草に有毒のアルカロイド(主成分:マトリン)を含みます。 マトリンは神経毒として作用し、大脳の運動野を麻痺させ、過剰摂取では痙攣・呼吸停止に至ることがあります。 根の部分が特に毒性が強く、家庭での採取・服用は厳禁です(日本薬学会)。 食用にはなりません。
生薬(苦参・くじん)としての利用
地上部が枯れた後に塊根(かいこん)を採取・洗浄・乾燥させたものを生薬「苦参(くじん)」といいます。 日本薬局方(にほんやっきょくほう)にも「クジン(苦参)」として収載されており、漢方処方に配剤されます。
苦参は古来より中国で「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の中品に収載され、解熱・利尿・温補の薬物として用いられてきました。
薬効(伝統的・民俗的利用):
- 内服:苦味健胃(くみけんい)・強壮・消炎・利尿・下痢止め・鎮痛
- 外用:皮膚疾患(湿疹・掻痒(そうよう)・水虫・疥癬(かいせん))への煎液(せんえき)塗布
⚠️ 民間伝承・漢方における伝統的利用であり、医療効果を保証するものではありません。 作用が激しいため、自己判断での服用は危険です。
農業・衛生分野での歴史的利用
クララはかつて「蛆殺し(うじころし)」とも呼ばれ、その強い毒性を農業・衛生管理に利用していました。
- 農薬代わり: 乾燥させた茎・葉を煎じた液を農作物の害虫駆除に使用
- 家畜衛生: 牛馬の皮膚に付いた寄生虫(きせいちゅう)の駆除
- 衛生管理: 乾燥・刻んだものを便槽に入れ、蛆虫(うじむし)の発生防止に利用
近代的な殺虫剤が普及する以前は、クララは農村の衛生管理に欠かせない植物でした(日本薬学会)。 クララが田の畦や用水路の土手などに植えられ管理されてきたことが、オオルリシジミの生息地の維持にもつながっていたとされています。
製紙原料としての利用(平安時代)
日本薬学会によると、平安時代には茎の繊維を和紙の原料として利用していた記録があります。 延喜式(えんぎしき)(927年)には、アサ・ガンピなどとともにクララも製紙原料として用いられていたことが記されています。 2010年には宮内庁正倉院事務所の調査で、正倉院古文書の一部にクララ原料とみられる紙が確認されています。
よくある質問
Q. クララはオオルリシジミ以外の生き物にも重要ですか? A. クララの花はミツバチや各種のチョウの吸蜜源(きゅうみつげん)にもなります。またオオルリシジミの幼虫と土中でともに過ごすアリ類にとっても、クララが生育する草原環境は重要です。
Q. 阿蘇の草原でクララを見分けるにはどうすればよいですか? A. 草丈50〜150cmの大株になり、6〜7月に白〜淡黄色の蝶形花を穂状(ほじょう)に多数つけます。葉は小葉が多数並ぶ羽状複葉で全体に白い細毛があります。大型で目立つため、開花期には草原内で比較的見つけやすい植物です。
Q. クララに触れるだけでも危険ですか? A. 皮膚接触による一般的な毒性は報告されていませんが、根や茎の汁が目や傷口に入らないよう注意が必要です。口に入れることは絶対に避けてください。
Q. 野焼きはクララにどんな影響を与えますか? A. 野焼きによって草原の樹木化が抑えられ、日当たりのよい開けた環境が維持されます。クララは日当たりのよい草地を好む植物であるため、野焼きの継続がクララの生育地の保全にも直結しています。
関連項目
参考文献
- 日本薬学会「クララ」(https://www.pharm.or.jp/yakusou/2023/01/post-51.html、2026年6月閲覧)
- 阿蘇地域世界農業遺産推進協会「オオルリシジミとクララ(阿蘇地域)」(https://www.giahs-aso.jp/、2026年6月閲覧)
- 丸善製薬株式会社「原料辞典:クララ(クジン)」(2026年6月閲覧)
- Wikipedia「クララ」(https://ja.wikipedia.org/wiki/クララ、2026年6月閲覧)
- 阿蘇デジタル博物館