概要
オオルリシジミ(大瑠璃小灰蝶(おおるりこはいちょう))とは、チョウ目シジミチョウ科に属する大型のシジミチョウで、阿蘇の火山性草原(かざんせいそうげん)を代表する絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)です。
学名は Shijimiaeoides divinus。 国内には本州亜種(ほんしゅうあしゅ)(S. d. barine)と九州亜種(きゅうしゅうあしゅ)(S. d. asonis)が分布し、阿蘇に生息するのは九州亜種にあたります。 かつては本州各地・東北地方にも広く生息していましたが、草原環境の消失によって各地で絶滅が進み、現在では熊本県阿蘇山系(九州亜種)と長野県内3か所(本州亜種)の合計4地域にしか生息が確認されていない、きわめて希少なチョウです(環境省レッドリスト:絶滅危惧ⅠA類(CR))。
熊本県では「熊本県特定希少野生動植物」に指定されており、採集・捕獲は条例により禁止されています。 阿蘇の草原と野焼き(のやき)・放牧(ほうぼく)による半自然草原(はんしぜんそうげん)の維持が、オオルリシジミの存続に直結しています。
形態・特徴
翅(はね)を広げた大きさは約30mmで、日本産シジミチョウ類のなかでは比較的大型の部類に入ります。
翅の表面(表翅(おもてはね)) オスの翅表(はねおもて)は全体に鮮やかな青紫色(瑠璃色(るりいろ))で、外縁部(がいえんぶ)は黒色を帯びます。 メスはオスより黒色部が広く、瑠璃色の面積が少なく、黒色の小斑点(しょうはんてん)を散布します。 九州亜種はとくに翅表の黒斑(こくはん)が消えかかる傾向があります。
翅の裏面(裏翅(うらはね)) 翅裏(はねうら)は全体に白色〜灰色地で、外縁に沿って大きな黒斑が並びます。 後翅(こうし)にはさらにオレンジ色の斑紋(はんもん)からなる帯をもつことが他のシジミチョウ類との見分けに有効です。 尾状突起(びじょうとっき)はありません。
生活史と食草との関係
オオルリシジミは年1回(年1化(ねんいっか))のみ成虫が発生し、阿蘇では4月下旬〜5月上旬頃に草原で姿を見せます。 成虫の寿命は短く、クララ・ヒメジョオン・シロツメクサなどの白い花で吸蜜しながら交尾・産卵を行います。
| 時期 | 生活ステージ |
|---|---|
| 4月下旬〜5月上旬 | 成虫が羽化・出現、交尾・産卵 |
| 5月 | 卵は約1週間で孵化、幼虫がクララの花芽・蕾を食べる |
| 6月中旬 | 幼虫がアリによって巣へ運ばれる |
| 7月〜翌3月頃 | 蛹(さなぎ)として土中(どちゅう)で約10か月越冬 |
| 翌4月下旬〜 | 羽化・成虫として出現 |
食草:クララとの深い関係
幼虫(ようちゅう)の食草(しょくそう)はマメ科植物のクララ(Sophora flavescens)のみに限られます。 クララは「眩草(くららぐさ)」とも呼ばれ、根を噛むと目が眩(くら)むほど苦いことがその名の由来です。 強い苦み成分を持つため放牧牛はクララを食べず、阿蘇の牧野ではクララが放牧地内にそのまま生育します。 オオルリシジミがクララの花穂(はなほ)に1粒ずつ産み付けた卵は約1週間で孵化し、孵化した幼虫はクララの花芽と蕾(つぼみ)を食べて成長します。
アリとの共生関係
オオルリシジミの幼虫はアリ類との共生関係(きょうせいかんけい)を持つことで知られています。 6月中旬になると幼虫の姿が草原から消えますが、これはアリによって地中の巣へ運ばれるためと考えられています。 幼虫はアリの巣の中で蛹となり、翌年の羽化まで約10か月を土中で過ごします。 また、卵に寄生(きせい)するメアカタマゴバチという天敵の影響も知られており、野焼きによってこの寄生バチが減少する効果があるとされています。
阿蘇における現状と脅威
阿蘇の草原はかつて野焼き・採草・放牧という人の管理によって維持されてきた半自然草原であり、クララもこうした草原管理のなかで生育地を保ってきました。 しかし、農業の機械化・化学肥料の普及・過疎と高齢化による野焼きの担い手不足などにより草原が縮小し、クララの生育地も減少してきました。 草原が管理されなくなるとススキやカヤが繁茂してクララが衰退し、オオルリシジミの生息環境は失われます。
また、希少チョウとしての知名度から不法採集の懸念もあります。 熊本県は「熊本県特定希少野生動植物」として採集・捕獲を条例で禁止しており、違反した場合は罰則の対象となります。
阿蘇火山博物館の資料によると、阿蘇の草原にはチョウ類109種が生息し「チョウの楽園」とも称されますが、オオルリシジミはなかでも最も絶滅リスクが高い種のひとつとされています(阿蘇火山博物館、展示資料)。
保全状況
| 機関 | カテゴリ |
|---|---|
| 環境省レッドリスト(2020年) | 絶滅危惧ⅠA類(CR) |
| 熊本県レッドリストくまもと2024 | 絶滅危惧ⅠA類(CR) |
| 熊本県 | 特定希少野生動植物(採集・捕獲禁止) |
よくある質問
Q. オオルリシジミはいつ、どこで観察できますか? A. 阿蘇の草原では4月下旬〜5月上旬頃が成虫の出現時期です。クララが生育する放牧地や採草地の近辺で見られますが、生息地の特定情報の公開は保護上の観点から制限されています。観察の際は採集せず、撮影にとどめてください。
Q. なぜ阿蘇にしか残っていないのですか? A. 野焼きや放牧によって維持されてきた半自然草原が阿蘇に残っているためです。本州では1962年頃からの大規模土地改良事業などによりクララを含む草原植生が消失し、各地で絶滅が進みました。阿蘇では牧野組合による草原管理が今も続いており、クララの生育地が保たれています。
Q. クララ以外の植物は食べませんか? A. 幼虫の食草はマメ科のクララのみです。成虫はクララのほかヒメジョオンやシロツメクサなどの白い花で吸蜜しますが、産卵・幼虫の生育はクララに完全に依存しています。
Q. 採集は本当に禁止されているのですか? A. はい。熊本県条例により「熊本県特定希少野生動植物」に指定されており、捕獲・採集・販売・譲渡は禁止されています。また環境省の絶滅危惧ⅠA類(CR)にも指定されています。
関連項目
参考文献
- 環境省「オオルリシジミ(本州亜種)」生きものログ(https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/zukan?_action=rn051、2026年6月閲覧)
- 熊本県『レッドリストくまもと2024 ―熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物―』(2024年)
- 阿蘇地域世界農業遺産推進協会「オオルリシジミとクララ(阿蘇地域)」(https://www.giahs-aso.jp/、2026年6月閲覧)
- 阿蘇火山博物館「オオルリシジミとクララ(生きものどうしの不思議な関係)」展示資料(https://www.asomuse.jp/)
- 安曇野市「天然記念物『安曇野のオオルリシジミ』」(https://www.city.azumino.nagano.jp/soshiki/43/89085.html、2026年6月閲覧)
- 阿蘇市草原デジタルずかん(ASO環境共生基金事業)「オオルリシジミ」(http://www.city.aso.kumamoto.jp/asokikin/zukan/72)