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阿蘇の自然

ハナシノブ

概要

ハナシノブ(はなしのぶ)(花忍、学名:Polemonium caeruleum subsp. kiushianum)とは、熊本県阿蘇地域の山地草原にのみ自生するハナシノブ科ハナシノブ属の多年草です。日本固有種であり、世界的に見ても阿蘇地方の限られた草原でしか自生が確認されていません(森林総合研究所九州支所、2010年)。

環境省レッドリストでは最も絶滅の危険性が高い絶滅危惧IA類(CR)に指定され、熊本県の「レッドリストくまもと2024」でも同じく絶滅危惧IA類(CR)と評価されています(環境省生物多様性センター、熊本県「レッドリストくまもと2024」)。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)に基づく国内希少野生動植物種であり、令和2年(2020年)2月には採取・譲渡等の規制がより厳格な特定第一種国内希少野生動植物種に指定されています(九州地方環境事務所、2020年)。

和名の「花忍」は、羽状に裂けた葉の形がシ植物のシノブに似ていることに由来するとされています(阿蘇花野協会「Web ASO野の花図鑑」)。

形態・特徴

高さは70〜100cmほどになる多年草です(環境省レッドリスト個票、2025年3月公表)。下部の葉には柄があり羽状に深く裂け、裂片は5〜11対、長さ1.5〜4cmの広披針形をしています。上部の葉は次第に小さくなり、柄がなくなります。花は茎の上部に円錐状に集まってつき、青紫色の花冠は長さ1〜1.5cmで5裂します。

花期は6〜8月で、見頃は6月中旬ごろとされています(環境省、南阿蘇ビジターセンター)。

生息・分布

日本固有種で、分布は九州地方に限られます。学術調査によれば、世界で確認されている自生地は阿蘇地方のわずか5箇所程度で、このうち2箇所は植林の影響を受けて個体数が減少過程にあると報告されています(森林総合研究所九州支所、2010年)。県内では波野(なみの)地区や高森町野尻など、阿蘇の山地草原に自生が確認されています(阿蘇花野協会)。

自生個体数の推定値は、資料や調査年によって幅があります。環境省の解説ページでは自生個体数をおおむね2,000個体程度としていますが、2010年代前半の現地からの報告では500個体程度とされることもあり、2018年の環境省現地調査では確認された区画がごく限られていたことが報告されています(環境省生物多様性センター「ハナシノブ:RL/RDB」、2025年3月公表)。数値に幅がある背景や最新の状況については、監修者確認をお願いします。

阿蘇との関わり

ハナシノブは、阿蘇の草原生態系を代表する植物の一つとされています。阿蘇の草原は氷期に大陸から渡来した草原性の遺存種が多く残るホットスポットとされ、ハナシノブもその一つと考えられています(森林総合研究所九州支所、2010年)。

繁殖には2種のマルハナバチ類やコハナバチ科を中心とした小型のハナバチ類、ハナアブ類、チョウ類が訪花し、送粉を担っていることが現地調査で確認されています。ただし個体数の少ない自生地では訪花昆虫も少なく、種子生産量が低下する傾向が指摘されています(森林総合研究所九州支所、2010年)。

阿蘇の草原野焼き(のやき)や採草放牧によって定期的に管理されることで維持されてきましたが、近年は農業形態の変化や放牧の衰退により管理が行き届かなくなった草原が増え、植林地化や遷移の進んだ藪地への変化が進んでいます。これがハナシノブをはじめとする草原性絶滅危惧植物の減少の主因の一つとされています(環境省、森林総合研究所九州支所)。

観察ポイント

ハナシノブの野生自生地は保護区に指定されており、盗掘・踏み荒らしの防止のため一般には公開されていません。無許可での採取は法律で禁じられているため、自生地を探して立ち入ることは避ける必要があります。

一般に観察できる場所としては、高森町高森の休暇村南阿蘇に隣接する阿蘇野草園があります。同園では保護・啓発を目的に苗が植栽されており、例年6月中旬から8月上旬ごろまで観賞できます(読売新聞オンライン、2024年6月13日付)。地元の熊本県立鹿本農業高校園芸技術科の生徒が苗の育成・定植を継続的に行っており、南阿蘇ビジターセンターでは例年6月に「みなみ阿蘇野の花コンサート」を開催し、観察会も行われています。令和8年(2026年)は6月14日に第9回が開催されました(PR TIMES、2026年6月11日付)。

保全状況

ハナシノブの保護は、熊本県・環境省それぞれの制度によって段階的に進められてきました。

  • 平成3年(1991年)11月:熊本県が「熊本県希少野生動植物の保護に関する条例」に基づき、ハナシノブ、オオルリシジミなど5種を「特定希少野生動植物」に、阿蘇地域の3箇所を「特定希少野生動植物保護区」に指定(熊本県「レッドリストくまもと2024」)
  • 平成7年(1995年):種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定(環境省)
  • 平成8年(1996年):環境省が保護増殖事業計画を策定し、山迫(やまさこ)・北伯母様(きたおばさま)の2箇所を生育地保護区に指定(環境省)
  • 平成19年(2007年):北伯母様生育地保護区内で枝打ちを実施(環境省)
  • 令和2年(2020年)2月:改正種の保存法に基づき、特定第一種国内希少野生動植物種に指定。同時に阿蘇地域に生育する他4種も指定された(九州地方環境事務所、2020年)

主な減少要因としては、園芸価値の高さによる盗掘、草原管理の放棄に伴う植生の変化、シカによる食害、自然遷移が挙げられています(環境省生物多様性センター「ハナシノブ:RL/RDB」、2025年3月公表)。

利用(伝承・民間療法)

原記事(2012年時点)では、薬用・食用としての利用について「不明」「特になし」と記録されています。熊本大学薬学部薬用植物園のデータベースでも、ハナシノブは薬用植物としては扱われておらず、花や葉の美しさから観賞用に栽培価値が高い植物とされています(熊本大学薬学部薬用植物園「薬草データベース」)。

なお、ハナシノブは種の保存法に基づく特定第一種国内希少野生動植物種に指定されているため、観賞目的であっても野生個体の採取・譲渡・譲受等は原則として禁止されており、許可を得ていない事業者からの購入もできません(熊本大学薬学部薬用植物園)。

よくある質問

Q. ハナシノブはどこに自生していますか? A. 日本国内では九州地方にのみ分布し、世界的にも阿蘇地方の限られた山地草原でしか自生が確認されていません。学術調査では自生地は5箇所程度とされています。

Q. ハナシノブの花はいつ見られますか? A. 花期は6〜8月で、見頃は6月中旬ごろです。高森町の阿蘇野草園では植栽された個体を観賞できます。

Q. ハナシノブを採ってもよいですか? A. できません。種の保存法に基づく特定第一種国内希少野生動植物種に指定されており、野生個体の採取・譲渡等は法律で禁止されています。

関連項目

  • 阿蘇の草原(内部リンク候補:記事IDの確認が必要です)
  • 野焼き(内部リンク候補:記事IDの確認が必要です)
  • 阿蘇ジオパーク(内部リンク候補:記事IDの確認が必要です)
  • オオルリシジミ
  • アソノコギリソウ(内部リンク候補:記事IDの確認が必要です)

参考文献

  • 環境省「ハナシノブ」自然環境・生物多様性(保護増殖事業のページ)
  • 環境省生物多様性センター「ハナシノブ:RL/RDB」(2025年3月公表)
  • 熊本県「レッドリストくまもと2024-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-」(2024年10月)
  • 森林総合研究所九州支所「阿蘇の草原性絶滅危惧植物と林業」『九州の森と林業』No.94、2010年12月
  • 阿蘇花野協会「Web ASO 野の花図鑑」
  • 阿蘇市「阿蘇草原デジタルずかん」
  • 熊本大学薬学部薬用植物園「薬草データベース」
  • 南阿蘇ビジターセンター ウェブサイト
  • 九州地方環境事務所「地域の希少植物を知ってもらうために【阿蘇地域】」(2020年9月)
  • 読売新聞オンライン、2024年6月13日付地域ニュース
  • PR TIMES、2026年6月11日付「阿蘇にしか自生しない『ハナシノブ』に捧ぐ 第9回みなみ阿蘇野の花コンサート」

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更新日: 2012-05-24 (木) 00:00:00 (5192d)