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阿蘇の自然

ハタネズミ

 

概要

ハタネズミ(Microtus montebelli)とは、ネズミ目(げっしもく)キヌゲネズミ科(か)ハタネズミ属(ぞく)に分類される、日本固有(にほんこゆう)の小型哺乳類(しょうがたほにゅうるい)です。本州(ほんしゅう)・九州(きゅうしゅう)・佐渡島(さどがしま)に分布し、阿蘇地域では草原(そうげん)に広く生息する代表的な草原性(そうげんせい)ネズミの一種です。個体数の増減が著しいことで知られ、熊本県では『レッドリストくまもと2024』において「要注目種(AN)」に位置づけられています。

データ

項目 内容
和名 ハタネズミ(畑鼠)
学名 Microtus montebelli
別名 ニホンハタネズミ
分類 ネズミ目キヌゲネズミ科ハタネズミ属
分布 本州・九州・佐渡島(日本固有種)
阿蘇地域での生息環境 カルデラ内の草原・河川敷・農耕地

形態・特徴

頭胴長(とうどうちょう)95〜140mm、尾長(びちょう)30〜50mmで、同属のネズミ亜科(あか)と比べて尾が著しく短いのが特徴です。体毛は茶褐色または灰黄赤色を呈し、腹面は灰白色です。南部に生息する個体ほど体が大きくなる傾向が報告されています(森林生物データベース、森林総合研究所)。地表から地中約50cmの間に網目状の巣穴を掘って生活し、地下生活への適応度が高い種です。

生態

行動・活動時間

夜行性で、主に日没後と日の出前の2〜3時間に活発に活動します。植物食に大きく偏った食性のため、栄養補給のために昼間も活動せざるを得ず、地表面には「ラン・ウェイ」と呼ばれる、下草や枯れ草を利用した網の目状の坑道(こうどう)を作って移動します。この坑道は、昼間に活動することで高まる捕食リスクを軽減する役割を果たしていると考えられています(阿蘇ペディア「草原のネズミ」)。

食性

イネ科・キク科を中心とした草の芽・根・茎・葉、および樹皮などを食べる、ほぼ完全な草食性(そうしょくせい)です。同じ草原性のネズミであるアカネズミヒメネズミが種子や昆虫も食べる雑食性であるのに対し、ハタネズミは植物食への依存度が際立って高い点で異なります(阿蘇ペディア「草原のネズミ」)。秋になると巣穴に食料を蓄える貯食(ちょしょく)行動も報告されています。

繁殖

交尾刺激排卵動物(こうびしげきはいらんどうぶつ)であり、1回の産子数は3〜5頭程度とされています。個体群の増減が著しいことが知られ、時に大発生(アウトブレイク)を起こし、イネ・サツマイモ・ニンジンなどの根菜類や造林地の樹木、果樹に大きな被害を及ぼすことがあります。捕食者としてはイタチ・トビ・ヘビなどが挙げられます。

阿蘇との関わり

草原生態系における役割

阿蘇では、ハタネズミはアカネズミ(article-307)とともに草原(そうげん)・農耕地・河川敷に広く生息し、個体数が豊富な種として知られています。ノスリをはじめとする猛禽類(もうきんるい)や、チョウゲンボウ・イタチ類などの捕食者にとって重要な餌資源となっており、阿蘇の草原における食物連鎖の重要な位置を占めています(環境省阿蘇くじゅう国立公園)。

阿蘇における個体群変動の研究

熊本県小国町(おぐにまち)と大分県玖珠町(くすまち)の県境に位置する一目山(ひとめやま)(標高1,287m)山頂付近で、昭和50年(1975)から昭和55年(1980)にかけて5年間実施された個体群生態調査では、ハタネズミの個体数が昭和51年(1976)6月にピーク(アウトブレイク)に達した後、減少に転じたことが報告されています。この調査では、ススキ(すすき)やクマザサ(くまざさ)などの食害による局所的な枯死パッチが確認された一方、捕食者や気象条件の直接的な影響は明確に認められませんでした。また、阿蘇南部地域での過去のアウトブレイク記録は、少雨傾向と関連がある可能性が指摘されています(九州大学、九州におけるハタネズミの個体群生態に関する研究)。個体数変動の要因は単一ではなく、複数の要因が複合的に作用していると考えられています。

阿蘇の草原と野焼き

阿蘇の草原野焼き(のやき)・放牧採草によって維持されており、ハタネズミはこの草原環境に深く依存して生活する種です。野焼き後、草原は一時的に裸地化しますが、地中に掘られた巣穴を利用することで直接的な影響は限定的とされ、草の再生とともに個体数が回復していくと考えられます。

観察情報

夜行性かつ地下生活性が高いため直接観察は難しいものの、草原河川敷の地表に残る網目状の坑道(ラン・ウェイ)や、齧(かじ)られた植物片・糞塊(ふんかい)から生息の痕跡を確認できる場合があります。造林地では若齢木の根際部を剥皮する食害が確認されることがあります。

熊本県レッドリスト上の位置づけ

レッドリストくまもと2024』における「要注目種(AN)」とは、現在は絶滅危惧の区分に該当しないものの、存続基盤が今後変化・減少することで容易に絶滅危惧種へ移行し得る可能性が高いと判断された種を指す区分です。ハタネズミは、個体数の増減が著しいという生態的特性から、継続的な動向注視が必要な種として選定されています。近縁のヒメネズミアカネズミがいずれの区分にも該当しないのとは対照的な位置づけです。なお、大分県など隣県のレッドデータブックでも、1980年代以降に確認例が急減した記録があるなど、地域的な個体数変動の大きさが共通して指摘されています。

よくある質問

Q. ハタネズミはどこに生息していますか? A. 本州・九州・佐渡島に分布する日本固有種です。「全国」ではなく分布域が限定されている点に注意が必要です。阿蘇地域ではカルデラ内の草原河川敷・農耕地に広く生息しています。

Q. ハタネズミはなぜ「要注目種」に指定されているのですか? A. 現在は絶滅危惧の区分には該当しませんが、個体数の増減が著しく、将来的に絶滅危惧に移行し得る可能性がある種として、動向を注視する目的で指定されています。

Q. ハタネズミとアカネズミヒメネズミはどう違いますか? A. ハタネズミは尾が著しく短く、ほぼ完全な草食性である点で、雑食性のアカネズミヒメネズミと異なります。地中に網目状の巣穴を掘って生活する点も特徴です。

Q. ハタネズミは農業被害を起こしますか? A. 個体数が大発生した際には、イネや根菜類、造林地の樹木、果樹などに大きな被害を及ぼすことが知られています。

関連項目

参考文献

  • レッドリストくまもと2024-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-』(熊本県、令和6年〈2024〉10月)
  • 阿蘇ペディア「草原のネズミ」(article-2659、2015年掲載)
  • 荒井秋晴・白石哲「九州におけるハタネズミの個体群生態-2-個体群変動と外的要因との関係」九州大学農学部演習林報告(1982年)
  • 森林生物データベース(森林総合研究所)「ハタネズミ」
  • 環境省 阿蘇くじゅう国立公園 阿蘇山上ビジターセンター「阿蘇の生きものと水のめぐみ」
  • 大分県レッドデータブック2022「ハタネズミ」(隣県比較参考)
更新日: 2018-09-11 (火) 00:00:00 (2928d)