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阿蘇の自然

ヒメネズミ

概要

ヒメネズミ(Apodemus argenteus)とは、ネズミ目(げっしもく)ネズミ科(ねずみか)アカネズミ属(ぞく)に分類される、日本固有(にほんこゆう)の小型哺乳類(しょうがたほにゅうるい)です。北海道から九州およびその周辺島嶼(とうしょ)まで広く分布し、阿蘇地域では主に森林内部に生息しています。同属(どうぞく)のアカネズミ(article-307)と生息域が重なりますが、樹上生活への適応度が高く、両種は環境をすみ分けています。

データ

項目 内容
和名 ヒメネズミ
学名 Apodemus argenteus
分類 ネズミ目ネズミ科アカネズミ属
英名 Small Japanese field mouse
分布 北海道〜九州(日本固有種)
阿蘇地域での生息環境 低地から高山帯までの森林(林内を選好)

形態・特徴

頭胴長(とうどうちょう)65〜100mm、尾長(びちょう)70〜110mm、後足長18〜21mm、体重10〜20g程度の小型のネズミです。体毛は背面が栗色、腹面は白色を呈します。同属のアカネズミに似ますが、頭胴長よりも尾長がやや長いこと、後足長が通常20mm以下であることで見分けられるとされています。ただしアカネズミの幼獣(ようじゅう)との識別は難しく、正確な判別には頭骨(とうこつ)の咬板(こうばん)形状の比較が用いられます(森林総合研究所四国支所)。

長い尾を使ってつるや細い枝の上でも巧みにバランスを取ることができ、地上だけでなく樹上でも活動できる点が本種最大の特徴です。地面に巣穴を掘るほか、樹洞(じゅどう)や鳥の巣箱に落ち葉を運び込んで巣として利用することもあります。

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NOZO (talk) - NOZO's file, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5266769による

生態

行動・活動時間

夜行性で、日没後から夜間にかけて活発に活動します。学術研究では、ヒメネズミは初夏から秋にかけて樹上を活発に利用し、それ以外の季節は地上を中心に活動することが報告されています。一方、同属のアカネズミには季節による樹上活動性の変化がほとんど見られず、通年地上を主な生活の場として利用する点で対照的です(生態学雑誌掲載研究)。

食性

雑食性で、植物の種子・果実・昆虫などを食べます。特に秋にはドングリ類が実る時期に合わせ、土の中に貯食(ちょしょく)する行動が知られています。ヒメネズミとアカネズミはともに、秋から冬にかけてマテバシイなどの堅果(けんか)を重要な餌資源として利用し、種子捕食者であると同時に種子散布者としても機能していると考えられています(日本森林学会誌掲載研究)。

繁殖

Apodemus属の繁殖期は一般に春と秋の年2回とされますが、寒冷な地域では夏季(6〜10月)にずれ込む例も報告されています(日本地球惑星科学連合発表資料)。阿蘇地域における繁殖期の詳細な調査結果は確認できておらず、今後の課題です。

阿蘇との関わり

森林とアカネズミとのすみ分け

阿蘇は、カルデラ内に広がる草原外輪山(がいりんざん)の森林とが接する、草原森林モザイク型の景観を特徴とします。この環境の中で、ヒメネズミとアカネズミは明確に生息場所をすみ分けていることが知られています。アカネズミは林縁部(りんえんぶ)から草原にかけての地表面を中心に生活しているのに対し、ヒメネズミは尾をバランサーとして使うことに長け、森林の深部で樹木がうっ閉(へい)した見通しの悪い場所を好み、樹上生活に高く適応していると報告されています(阿蘇ペディア「草原のネズミ」)。この地域限定の観察は、全国規模の学術調査(林縁部での捕獲調査)が示す傾向とも一致しています(生態学会研究発表)。

つまりヒメネズミは、阿蘇の草原そのものよりも、草原を取り巻く森林部分と強く結びついた種であるといえます。阿蘇の草原景観野焼き(のやき)・放牧採草という人の営みによって維持されてきたのに対し、ヒメネズミが利用する森林はその周縁で草原とは異なる生態系サービスを提供しており、両者が接するモザイク環境全体が阿蘇の生物多様性を支えていると考えられます。

阿蘇の草原と野焼き

阿蘇の草原は毎年3月頃に野焼きが行われ、一時的に地表が焼失します。ヒメネズミは主として森林内部を利用するため、草原そのものを主な生息地とするアカネズミハタネズミに比べて野焼きの直接的な影響は小さいと考えられますが、林縁部を介した草原との資源のやり取り(種子の運搬等)を通じて、間接的に草原生態系とも関わっていると考えられます。阿蘇とその周辺には約33種の哺乳類が生息しており(環境省阿蘇くじゅう国立公園)、ヒメネズミはそのうち森林環境を代表する種の一つに位置づけられます。

観察情報

夜行性のため直接観察は難しいものの、樹皮に残る爪痕(つめあと)や、樹洞・巣箱に運び込まれた落ち葉の巣材(すざい)などから生息の痕跡を確認できる場合があります。アカネズミとの外見上の識別は難しいため、確実な判別には専門的な調査手法が必要です。観察の際は、野生動物への影響に配慮し、巣穴やねぐらに手を触れないよう注意が必要です。

熊本県レッドリスト上の位置づけ

レッドリストくまもと2024』(熊本県、令和6年〈2024〉10月発刊)では、県内に生息する哺乳類45種のうち22種が保護上重要な種として選定され、要注目種(AN)として4種(ニホンジネズミ・モモジロコウモリ・スミスネズミ・ハタネズミ)が追加指定されていますが、ヒメネズミはいずれのカテゴリーにも該当していません。日本固有種ではあるものの、全国的に広く分布し個体数も安定していることから、現時点で県レベルでの保護上の懸念は示されていないと考えられます。近縁種のハタネズミが要注目種に指定されているのとは対照的な位置づけです。

よくある質問

Q. ヒメネズミとアカネズミはどう見分けますか? A. 外見は非常によく似ていますが、ヒメネズミは頭胴長より尾長がやや長く、後足長が通常20mm以下である点で区別されます。ただし正確な識別には頭骨の形状比較が必要とされています。

Q. ヒメネズミは阿蘇の草原にもいますか? A. 生息調査では、ヒメネズミは草原そのものよりも林内(森林の内部)を強く選好する傾向が確認されています。草原の地表や林縁を主に利用するアカネズミとは対照的です。

Q. ヒメネズミは絶滅の心配がありますか? A. 『レッドリストくまもと2024』には掲載されておらず、現時点で県内における生息状況は安定していると考えられます。

Q. ヒメネズミは森林の中でどのような役割を果たしていますか? A. ドングリなどの種子を貯食する習性があり、食べ残された種子が発芽することで、樹木の更新を間接的に支える「種子散布者」としての機能を持つと考えられています。

関連項目

参考文献

  • 阿蘇ペディア「草原のネズミ
  • レッドリストくまもと2024-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-』
  • 森林総合研究所四国支所「今月の一枚(No.286):ヒメネズミ」
  • 環境省 阿蘇くじゅう国立公園 阿蘇山上ビジターセンター「阿蘇の生きものと水のめぐみ」
  • 日本地球惑星科学連合2013年大会発表要旨「森林性ネズミ2種の生育地分割パターンと寒冷地特異的繁殖行動」
  • 日本森林学会誌掲載研究「種子食性野ネズミの行動圏特性と堅果運搬能力」
  • 日本生態学会第64回大会発表要旨「林縁における森林性野ネズミのハビタット利用様式」
更新日: 2019-03-11 (月) 00:00:00 (2747d)