概要
火砕流(かさいりゅう)とは、噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガスなどが混ざり合い、地表に沿って流れる現象です(気象庁)。火山灰・軽石・岩塊などの火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)の流れという意味から、火砕流という語が生まれました。
火砕流の速度は時速100km以上、温度は数百℃に達することがあります(気象庁)。
阿蘇カルデラは、約27万年前から約9万年前にかけて起きた4回の巨大火砕流噴火によって形成されました。それぞれの噴火と堆積物は、古い順にAso-1、Aso-2、Aso-3、Aso-4と呼ばれます。
火砕流のしくみ
火砕流本体・火砕サージ・火山灰雲
火砕流は、重い粒子が斜面に沿って流れ下る「火砕流本体」と、軽い粒子と高温ガスが本体から広がる「火山灰雲」に分けて説明されます(産業技術総合研究所)。
火砕サージとは、火砕流の一種で、火山ガスを主体とする希薄な流れのことです(気象庁)。流動性が高く、尾根を乗り越えて流れることがあります。

発生の型
火砕流の発生の型には、次のような分類があります(気象庁札幌管区気象台資料)。
- メラピ型:成長中の溶岩ドームの一部が崩れて斜面を流下するもの
- プレー型:成長中の溶岩ドームが爆発して斜面を流下するもの
- スフリエール型:噴煙が火口から吹き上がったのち崩落する、または火口から噴きこぼれるもの
さらに規模の大きなものは中間型火砕流と呼ばれ、噴煙柱(ふんえんちゅう)の一部が崩れて流下します。大規模な火砕流はカルデラを形成することがあります。
近年の災害事例
平成3年(1991)6月3日、雲仙岳(長崎県)で発生した火砕流は、火口から約4.3km流下しました。この火砕流で死者・行方不明者43人の被害が出ました(内閣府『1990-1995 雲仙普賢岳噴火』)。
阿蘇の4回の火砕流噴火
| 名称 | 年代 | 分布の目安 |
|---|---|---|
| Aso-1 | 約27万年前 | カルデラから約20〜30kmまで |
| Aso-2 | 約14万年前 | カルデラから約20〜30kmまで |
| Aso-3 | 約12〜13万年前 | 九州東岸まで |
| Aso-4 | 約9万年前 | 長崎県島原半島や山口県にも分布 |
(産業技術総合研究所地質調査総合センター。Aso-3の年代は資料により約12万年前、約13万年前と異なります)
各噴火サイクルの間には、より小規模な降下火砕物や溶岩を噴出する活動がありました。カルデラ西方では、Aso-1とAso-2の間に赤井(あかい)火山が砥川(とがわ)溶岩を、Aso-3とAso-4の間に大峯(おおみね)火山が高遊原(たかゆうばる)溶岩を噴出しました。
Aso-4火砕流
規模と到達範囲
Aso-4噴火は、約9万年前に発生した阿蘇火山最大の噴火です。年代測定値は約8.6万〜8.9万年前の範囲で報告されています(産業技術総合研究所)。
阿蘇4火砕流堆積物は、阿蘇カルデラ中心から北北東に約170km離れた山口県中北部まで確認されています。
北西では約140km離れた長崎県松浦市、南西・南東では約100km離れた天草市や宮崎平野まで分布が知られています。
カルデラに近い熊本県・大分県では厚さ50〜100m以上、佐賀県・福岡県・宮崎県でも厚いところで10m以上の堆積物があります(産業技術総合研究所、2023年4月)。
福岡市・北九州市・熊本市の3つの政令指定都市を含む7県の範囲が火砕流に覆われたとされています。
火砕流堆積物の見かけ体積は、340〜940km³と推定されています(産業技術総合研究所、2022)。体積の推定値には研究ごとに幅があります。
火山灰の広がり
火砕流から舞い上がった阿蘇4火山灰は、日本列島のほぼ全域で確認されています。阿蘇カルデラから1,600km以上離れた北海道東部でも、厚さ1〜15cmで堆積しています。
阿蘇4火山灰は、地層の対比や年代の指標となる広域火山灰(テフラ)として利用されています。

海を越えた可能性について
Aso-4噴火の時期の海水準は、現在より約50m低かったと見積もられています(産業技術総合研究所)。山口県や島原半島の堆積物については、火砕流が海面を流走して到達した可能性が指摘されています。
溶結凝灰岩と柱状節理
溶結のしくみ
火砕流堆積物は、堆積時に低温であればシラス状の未固結堆積物となります。高温を保っていた部分は、溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)と呼ばれる岩石になります。
溶結とは、高温で粘性を保った軽石・スコリア・ガラス質火山灰が、堆積後にくっつき合う現象です。大型の軽石やスコリアは自重で扁平な円盤状になり、断面ではレンズ状に見えます。これを本質(ほんしつ)レンズといいます。
溶結の度合いは、堆積物の下から上に向かって、基底の非溶結部、下部から中部の強溶結部、上部の非溶結部の順に変化するのが一般的です。
柱状節理(ちゅうじょうせつり)
溶結部は冷却時に収縮するため、柱状節理が発達します。節理の幅は、溶結度が低いほど広い傾向があります。
溶結凝灰岩は侵食を受けやすい基底の非溶結部の上に載るため、崖が鉛直に維持されることが多くなります。

景観との関わり
阿蘇ジオパークの資料は、次の場所を阿蘇火砕流堆積物(溶結凝灰岩)による景観として挙げています。
溶結凝灰岩は、九州各地の石橋や摩崖仏(まがいぶつ)の石材としても用いられてきました。
よくある質問
Q. 火砕流とは何ですか? A. 噴火で放出された破片状の固体物質と火山ガスが混ざり、地表に沿って流れる現象です。速度は時速100km以上、温度は数百℃に達することがあります(気象庁)。
Q. 阿蘇の火砕流はどこまで到達しましたか? A. 約9万年前のAso-4火砕流は、阿蘇カルデラから約170km離れた山口県中北部まで到達したことが確認されています(産業技術総合研究所)。
Q. 阿蘇では火砕流噴火が何回ありましたか? A. 約27万年前から約9万年前までに4回あり、古い順にAso-1、Aso-2、Aso-3、Aso-4と呼ばれます。
Q. 溶結凝灰岩とは何ですか? A. 高温の火砕流堆積物が、軽石や火山灰どうしのくっつき合いで固まった岩石です。
Q. 現在の阿蘇山で火砕流は起こりますか? A. 現在の阿蘇山(中岳第一火口)の活動状況は、気象庁の噴火警戒レベルで確認できます。最新情報は気象庁の発表をご確認ください。
関連項目
阿蘇カルデラ / 阿蘇山の歴史(article-2896) / 阿蘇溶結凝灰岩(article-2958) / 阿蘇ジオパーク / 阿蘇五岳 / 蘇陽峡 / 高千穂峡 / 鍋ヶ滝 / 大峯火山 / 阿蘇4火山灰
参考文献
- 気象庁「火山災害の種類」「火山活動全般に関する用語」
- 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「阿蘇カルデラ阿蘇4火砕流堆積物分布図 解説」、プレスリリース「わが国最大の巨大噴火の全体像が明らかに」(2023年4月12日)
- 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「絵で見る地球科学 火砕流」
- 阿蘇ジオパーク推進協議会「阿蘇カルデラ」「阿蘇のいろいろ資料 Aso-4火砕流堆積物(溶結凝灰岩)」
- 内閣府 災害教訓の継承に関する専門調査会『1990-1995 雲仙普賢岳噴火』(平成19年(2007)3月)
- 気象庁 札幌管区気象台「防災メモ【火砕流】」