概要
噴火警戒レベルとは、火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲」と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する、気象庁の指標です。噴火警報・噴火予報に付して発表されます。
平成19年(2007)12月1日から全国の対象火山で順次導入され、阿蘇山(あそさん)(中岳(なかだけ)第一火口)でも同日に運用が開始されました。令和8年(2026)8月17日発表の解説情報時点では、噴火警戒レベル3(入山規制)が継続しており、中岳第一火口から概ね2kmの範囲が立入禁止となっています(気象庁、2026年8月17日発表)。

制度の目的・背景
活動火山対策特別措置法
噴火警戒レベルの運用は、「活動火山対策特別措置法(かつどうかざんたいさくとくべつそちほう)」(通称・活火山法)に基づいています。同法は昭和48年(1973)、相次ぐ桜島の噴火による噴石・降灰被害への対策を目的に、「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」として制定されました。昭和53年(1978)には有珠山(うすざん)噴火による大量降灰被害を受けて現在の名称に改称され、公共施設の降灰除去・防除施設整備に関する措置が追加されています(内閣府『令和6年版防災白書』)。
制定当初は避難施設整備などのハード対策が中心でしたが、平成26年(2014)9月の御嶽山(おんたけさん)噴火(死者・行方不明者63名)を大きな教訓として、平成27年(2015)7月の法改正により、住民に加えて登山者・観光客も対策の対象として明記されるとともに、火山防災協議会の設置義務化、集客施設所有者による避難確保計画の作成義務化など、警戒避難体制(ソフト対策)の充実が図られました(内閣府『令和6年版防災白書』特集1第2章第1節)。当時の御嶽山は噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)であり、前兆となる明瞭な異常が観測されないまま噴火に至った事例として、レベル制度の限界を示すものともなりました。
「火山活動度レベル」からの移行
噴火警戒レベル導入以前は、火山ごとに運用の異なる「火山活動度レベル」という指標が用いられていましたが、防災対応との対応関係が分かりにくいという課題がありました。内閣府に設置された「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」(座長・田中淳東洋大学教授)での検討を経て、「避難」「避難準備」「入山規制」等、防災対応に直結するキーワードを各区分に設定した新しい指標の名称を「噴火警戒レベル」とすることが決定され(気象庁、2007年6月7日発表)、同年12月から運用が開始されました。
制度の仕組み
噴火警戒レベルは、レベル1からレベル5までの5段階で構成されます。
| レベル | キーワード | 想定される状況 |
|---|---|---|
| レベル5 | 避難 | 居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生、あるいは切迫している状態 |
| レベル4 | 高齢者等避難 | 居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生すると予想される(可能性が高まっている)状態 |
| レベル3 | 入山規制 | 火口から居住地域近くまでの広い範囲の火口周辺に重大な影響を及ぼす噴火が発生、あるいは発生すると予想される状態 |
| レベル2 | 火口周辺規制 | 火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生、あるいは発生すると予想される状態 |
| レベル1 | 活火山であることに留意 | 火山活動の状態によって、火口内で火山灰の噴出等が見られる状態 |
(気象庁「噴火警戒レベルの説明」より作成)
レベルは、各火山の地元都道府県・市町村・気象台等で構成する「火山防災協議会」での共同検討を経て、避難開始時期・避難対象地域が市町村・都道府県の地域防災計画に定められた火山から順次導入されます。判定・発表を行うのは気象庁(各管区気象台)で、噴火警報・噴火予報に噴火警戒レベルを付して発表します。市町村等の防災機関は、あらかじめ合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難指示等の対応をとることができます。
留意点として、火山の状況によっては異常が観測されずに噴火に至る場合もあり、レベルの発表が必ずしも1→2→3と段階を追って順番どおりになるとは限りません(引き下げの際も同様です)。また、各レベルで想定する対象地域や具体的な防災対応の内容は、火山ごとに異なります。
令和8年(2026)3月現在、気象庁の常時観測火山51のうち49火山で噴火警戒レベルが運用されています(気象庁「噴火警戒レベルの説明」)。導入されていないのは、周辺に住民や登山者等が存在しない火山です。
阿蘇山における判定基準
阿蘇山では中岳第一火口を対象に噴火警戒レベルが設定されています。判定基準は、地震計・傾斜計・空振計・GNSS・監視カメラ等による観測データに基づき定められています(福岡管区気象台地域火山監視・警報センター「阿蘇山の噴火警戒レベル判定基準」)。
レベル2(火口周辺規制)への引き上げ基準(主な項目)
- 火山性微動の振幅が大きな状態(中岳西山腹観測点南北動成分で1分間平均振幅2.5マイクロメートル毎秒以上)が1時間以上継続
- 火口内の土砂噴出の活発化(高さ約30m以上)
- 震度1相当以上の規模の大きな火山性微動の発生
- 火山ガス(二酸化硫黄)の1日あたりの放出量が概ね1,500トン以上 等(複数項目の組み合わせによる判定を含む)
レベル3(入山規制)への引き上げ基準(主な項目)
- 火山性微動の振幅の増大(中岳西山腹観測点南北動成分で1分間平均振幅4マイクロメートル毎秒以上)
- 火山ガス(二酸化硫黄)の1日あたりの放出量が概ね2,000トンを超えて急激に増加(2〜3倍程度)
- 火口直下の増圧を示す急激な地殻変動(古坊中(ふるぼうちゅう)観測点傾斜計で概ね0.1マイクロラジアン毎時以上の傾斜変化等) 等
レベル4・5の判定基準
阿蘇山の場合、最も近い居住地域でも中岳火口から4km以上離れています。溶岩流が居住地域に到達する可能性がある場合にレベル4、到達が避けられなくなった場合にレベル5とされています。
引き下げ基準は、これらの現象がおおむね1か月観測されない状態が続いた場合を基本としますが、活動状況によっては最短3日程度から検討が開始されることもあります。
判定基準は新たな知見の蓄積に応じて随時見直されており、阿蘇山では令和4年(2022)9月8日、令和5年(2023)3月15日、令和6年(2024)3月14日にそれぞれ一部改定が行われています(気象庁報道発表)。
阿蘇山における警戒区域
各レベルにおける立入規制の範囲は、阿蘇市・高森町・南阿蘇村の地域防災計画等に基づき、概ね次のとおり定められています(福岡管区気象台リーフレット「阿蘇山 噴火警戒レベルに対応した規制範囲」)。
- レベル1:火口内等が常時立入禁止
- レベル2:火口から概ね1km以内が立入禁止
- レベル3:火口から概ね2km以内が立入禁止(中岳・高岳への登山道、阿蘇パノラマライン坊中線と吉田線の合流点から先が立入禁止となる。活動状況により、居住地域付近(概ね4km)まで規制範囲が拡大される場合がある)
- レベル4・5:警戒が必要な居住地域での高齢者等避難、避難等の対応
過去には、噴石が中岳第一火口から約1.2km(昭和54年〈1979〉9月)、約1.3km(昭和33年〈1958〉6月)、第二火口から約1.2km(昭和8年〈1933〉2月)まで飛散した事例が記録されています(同リーフレット)。なお、噴火警戒レベルは火山ガスに関する規制とは別の指標である点にも留意が必要です。
全国的な運用の経緯
- 平成19年(2007)12月1日:噴火警戒レベルの運用開始。対象火山から順次導入
- 平成26年(2014)9月27日:御嶽山噴火。死者・行方不明者63名。当時のレベルは1(活火山であることに留意)
- 平成27年(2015)7月:活動火山対策特別措置法改正。登山者・観光客の明記、火山防災協議会の設置義務化等
- 令和8年(2026)3月現在:常時観測火山51のうち49火山で運用中
阿蘇山における運用実績
阿蘇山では、平成19年(2007)12月1日の運用開始以降、火山活動の状況に応じてレベルの引き上げ・引き下げが繰り返されています。主な推移は次のとおりです(熊本地方気象台「阿蘇山の噴火警戒レベルの推移」より抜粋・作成)。
| 年月日 | レベル | 種別 |
|---|---|---|
| 2007年12月1日 | 1 | 運用開始 |
| 2011年5月16日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2013年9月25日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2014年8月30日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2015年9月14日 | 3 | 入山規制 |
| 2015年11月24日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2016年10月8日 | 3 | 入山規制 |
| 2016年12月20日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2017年2月7日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2019年3月12日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2019年4月14日 | 2 | 火口周辺規制(切替) |
| 2020年8月18日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2021年5月2日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2021年6月9日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2021年10月20日 | 3 | 入山規制(噴火発生。火砕流(かさいりゅう)が火口より1km以上に到達) |
| 2021年11月18日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2022年2月24日 | 3 | 入山規制 |
| 2022年3月14日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2022年4月15日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2023年1月30日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2023年3月23日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2024年1月23日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2024年5月15日 | 2 | 火口周辺規制(切替) |
| 2025年7月4日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2025年7月25日 | 1 | 活火山であることに留意 |
| 2026年6月21日 | 2 | 火口周辺規制 |
| 2026年8月14日 | 3 | 入山規制 |
(このほか、同一レベル内での噴火予報・警報の細かな切り替えがあります。詳細は熊本地方気象台公表資料をご参照ください)
この推移から、阿蘇山でレベル3(入山規制)に引き上げられたのは、平成19年(2007)の運用開始以降、令和8年(2026)8月時点で少なくとも5回(平成27年9月・平成28年10月・令和3年10月・令和4年2月・令和8年8月)を数えます。
令和8年(2026)の活動状況
令和8年(2026)6月21日、火山活動の高まりを受けて噴火警戒レベルが1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げられました。同年7月に「令和8年(2026)熊本地震」が発生しましたが、この地震と中岳の火山活動との関係について、気象庁は「科学的な根拠を持って関係があるのかないのかをはっきりと言えない」としています(時事通信、2026年8月14日)。
同年8月12日19時頃から火山性微動の振幅が増大し、8月14日15時過ぎには中岳西山腹観測点南北動成分の1分間平均振幅が4マイクロメートル毎秒を超えました。同日実施の現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が1日あたり2,700トンと、8月6日の1,200トンから急増していることが確認され、中岳第一火口では白色の噴煙が最高で火口縁上800mまで上がりました。これを受け、福岡管区気象台は同日15時45分、噴火警戒レベルを2から3(入山規制)に引き上げました(気象庁、環境省九州地方環境事務所、いずれも2026年8月14日発表)。阿蘇山でレベル3となるのは、令和4年(2022)2月24日〜3月14日の期間以来、約4年半ぶりです(熊本日日新聞、2026年8月14日)。
なお、GNSS連続観測では令和8年(2026)5月頃から、草千里(くさせんり)を挟む基線を含む広域で、草千里付近の深部にあると考えられるマグマだまりへのマグマ蓄積を示唆する地殻変動が認められています(気象庁「阿蘇山の火山の状況に関する解説情報」)。
8月17日16時発表の解説情報でも噴火警戒レベル3の継続が確認されており、中岳第一火口から概ね2kmの範囲に影響を及ぼす噴火が発生する可能性があるとして、引き続き警戒が呼びかけられています(気象庁、2026年8月17日発表)。この活動の高まりにより、令和8年(2026)1月に発生した「阿蘇中岳ヘリコプター墜落事故」の機体・搭乗者の引き上げ作業も中断が続いています。
火口見学・観光への影響
阿蘇山公園道路を利用した中岳第一火口周辺への立ち入りは、噴火警戒レベルに応じて規制されます。レベル2以上では概ね1km以内、レベル3では概ね2km以内が立入禁止となるため、火口見学は中止となります。具体的な規制範囲・道路の通行状況は、阿蘇市・高森町・南阿蘇村や関係機関が随時発表する情報の確認が必要です(なお、火口西駅までを結んでいた阿蘇山ロープウェイは既に廃止されています)。
よくある質問
Q. 噴火警戒レベルは誰が発表していますか? A. 気象庁(阿蘇山の場合は福岡管区気象台)が、噴火警報・噴火予報に付して発表しています。
Q. レベルは必ず1→2→3の順番で上がったり下がったりしますか? A. 必ずしもそうとは限りません。火山活動によっては前兆となる異常が観測されずに噴火に至ることもあり、平成26年(2014)の御嶽山噴火のようにレベル1のまま噴火が発生した事例もあります(気象庁「噴火警戒レベルの説明」、内閣府『令和6年版防災白書』)。
Q. 阿蘇山でレベル3(入山規制)になったのは何回ありますか? A. 平成19年(2007)の運用開始以降、令和8年(2026)8月時点で少なくとも5回(平成27年9月・平成28年10月・令和3年10月・令和4年2月・令和8年8月)です(熊本地方気象台資料等より作成)。
Q. 現在(令和8年8月時点)の阿蘇山のレベルはいくつですか? A. 令和8年(2026)8月14日にレベル3(入山規制)へ引き上げられ、同月17日発表の解説情報でも継続が確認されています。最新情報は気象庁ホームページ等でご確認ください。
Q. 噴火警戒レベルが導入されていない火山もありますか? A. あります。令和8年(2026)3月現在、常時観測火山51のうち49火山で運用されており、周辺に住民や登山者等が存在しない火山では導入されていません(気象庁「噴火警戒レベルの説明」)。
関連項目
- 阿蘇山
- 阿蘇山の歴史
- 中岳火口(阿蘇中岳第一火口)
- 阿蘇山測候所
- 阿蘇火山防災会議協議会
- 阿蘇くじゅう国立公園
- 阿蘇中岳ヘリコプター墜落事故
- 令和8年熊本地震
参考文献
- 気象庁「噴火警戒レベルの説明」(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/level_toha/level_toha.html、2026年8月閲覧)
- 気象庁「火山に関する防災情報についての用語」
- 気象庁「噴火警戒レベルの運用改善について」報道発表(2007年6月7日)
- 福岡管区気象台地域火山監視・警報センター「阿蘇山の噴火警戒レベル判定基準」
- 福岡管区気象台リーフレット「阿蘇山 噴火警戒レベルに対応した規制範囲」
- 熊本地方気象台「阿蘇山の噴火警戒レベルの推移」(https://www.jma-net.go.jp/kumamoto/shosai/volcanic alert levels.html、2026年8月閲覧)
- 気象庁「火山活動の状況(阿蘇山)」(https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/activity_info/503.html、2026年8月閲覧)
- 気象庁「阿蘇山の噴火警戒レベルを3へ引上げ」報道発表(令和3年10月20日・令和4年2月24日・令和8年8月14日)
- 気象庁「蔵王山、浅間山及び阿蘇山の噴火警戒レベルの判定基準の改定について」(令和6年3月14日)
- 環境省九州地方環境事務所「阿蘇山における噴火警戒レベルの引き上げ(2から3)【2026年8月】」(2026年8月14日)
- 内閣府『令和6年版防災白書』特集1第2章第1節「活動火山対策特別措置法と御嶽山噴火を踏まえた改正」
- 活動火山対策特別措置法(昭和48年法律第61号)
- 時事通信「阿蘇山、警戒レベル3に=大きな噴石の飛散などに警戒―気象庁」(2026年8月14日)
- 熊本日日新聞「阿蘇中岳第1火口、噴火警戒レベル3へ引き上げ」(2026年8月14日)
- テレビ朝日ニュース「熊本・阿蘇山の噴火警戒レベル『3』に」(2026年8月14日)
- 西日本新聞me「熊本・阿蘇山、火山活動高まる 噴火警戒レベル3継続」(2026年8月17日)
※本記事は令和8年(2026)8月19日時点の公的発表・報道に基づいています。阿蘇山の火山活動は進行中の事案であり、レベルの変化により内容が変わる可能性があります。