メインコンテンツへスキップ
文化・歴史

阿蘇山ロープウェイ

概要

阿蘇山ロープウェー(あそさんロープウェー)とは、熊本県阿蘇市黒川阿蘇山上から中岳第一火口(なかだけだいいちかこう)の火口縁(かこうえん)までを結んでいた索道(さくどう)です。昭和33年(1958)4月10日に営業を開始し、平成26年(2014)8月の運行停止を経て、令和元年(2019)12月24日に事業者が再建の中止を発表したことで、実質的に廃止されました。

阿蘇山ロープウェーは、活動中の火山の火口縁に直接乗り入れる索道として、世界でも例の少ない存在であったと紹介されてきました。運営は一貫して九州産交(きゅうしゅうさんこう)グループが担い、廃止時の事業者は九州産交ーリズム株式会社です。

営業距離は858m、高低差は108mでした。ゴンドラの定員は91人で、所要時間は約4分でした。廃止までの営業期間は約61年間にあたります。

阿蘇山ロープウェーの山麓側の駅であった阿蘇山西駅(あそさんにしえき)の跡地には、令和3年(2021)2月12日に「阿蘇山上ターミナル」が開業し、火口までの区間は代替のバス「阿蘇山火口シャトル」が担っています。


施設の諸元

廃止時点(平成26年〈2014〉の運行停止時)の主な諸元は次のとおりです。

項目 内容
営業開始 昭和33年(1958)4月10日
営業距離 858m
高低差 108m
索道方式 普通索道・4線交走式(こうそうしき)
最大乗車人員 91名
運行速度 毎秒3.6m
所要時間 約4分
運行間隔 15分間隔(多客時は短縮)
起終点 阿蘇山西駅 - 火口西駅(かこうにしえき)
所在地 熊本県阿蘇市黒川808-5
事業者 九州産交ツーリズム株式会社

交走式(こうそうしき)とは、2台の搬器(はんき)が1本のロープでつながれ、一方が上がるときにもう一方が下がるかたちで交互に往復する索道の方式です。阿蘇山ロープウェーは支索(しさく)と曳索(えいさく)を別に持つ複線交走式で、大型のゴンドラを運行できる構造でした。

阿蘇山ロープウェーは、阿蘇山の噴火警戒レベルが1(活火山であることに留意)の期間のみ運行され、レベル2(火口周辺規制)以上に引き上げられた場合には運休となりました。同時に阿蘇山公園道路も通行止めとなるため、レベル2以上の期間は火口見学そのものができない仕組みでした。


建設の経緯と開業

阿蘇山ロープウェーは、昭和33年(1958)4月10日に営業を開始しました。当時の阿蘇山上へのアクセスは自動車道路に限られており、火口縁までは徒歩または馬による移動が中心でした。索道の架設によって、山麓の広場から火口縁まで4分で到達できるようになり、阿蘇観光の形態は大きく変化したと考えられています。

阿蘇山ロープウェーは、後年「ハイヒールのままで火口が覗ける」と称される火口観光の中心的な設備となりました(阿蘇ペディア「中岳」)。

開業直後の噴火災害

開業からわずか2か月半後の昭和33年(1958)6月24日22時15分、中岳第一火口が爆発しました。この爆発では横殴りの噴煙(低温火砕流(ていおんかさいりゅう))が火口から約1km離れた山上広場を襲い、死者12人、重傷者6人、軽傷者22人を出しています。

死者12人の内訳は、阿蘇山ロープウェーの支柱工事に従事していた作業員6人と、山上広場付近で倒壊した家屋の下敷きとなった6人であったと記録されています。また、火口駅(のちの火口西駅、第一火口から南に約450m)は半壊し、火口付近の退避壕(たいひごう)の屋根には直径50〜100cmの穴が開き、鉄筋も一部が断ち切られていました(阿蘇ペディア「噴火災害」)。

昭和33年(1958)の爆発は、昭和54年(1979)の爆発と並んで、噴石(ふんせき)が火口から1kmを大きく越えて到達した数少ない事例とされています。阿蘇山ロープウェーは、その開業年から火山活動と隣り合わせの施設であったことになります。


歴史的経緯

昭和・平成期の運行

阿蘇山ロープウェーは、開業以来たびたび噴火活動による運休を挟みながら運行を続けました。中岳では昭和40年(1965)、昭和54年(1979)、平成2年(1990)などに被害を伴う噴火が発生しており、そのつど火口周辺の立入規制が敷かれています。

平成21年(2009)9月17日、ゴンドラのデザインが一新されました。デザインを担当したのは、九州旅客鉄道(きゅうしゅうりょかくてつどう)(JR九州)の車両や駅舎を手がけた工業デザイナーの水戸岡鋭治(みとおかえいじ)氏です。

また、山麓側の阿蘇山西駅の2階には、屋内型のプロジェクションマッピング施設「阿蘇スーパーリング」が設けられていました。4面のマルチスクリーンとジオラマスクリーンを用い、阿蘇の四季や祭り、カルデラの形成過程、中岳火口の疑似体験を提供する施設で、平成26年(2014)7月の時点では屋内常設のものとして国内最大規模とされていました。

平成26年(2014)— 運行停止

平成26年(2014)8月30日、気象庁が阿蘇山の噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げました。これに伴い阿蘇山ロープウェーは運休となりました。

阿蘇山ロープウェーは、この日を最後に一度も営業運行を再開しないまま廃止に至っています。同年11月25日には中岳第一火口でマグマ噴火が確認され、平成27年(2015)9月14日には噴火警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられるなど、火山活動は長期にわたって活発な状態が続きました。

平成28年(2016)— 二重の被災

平成28年(2016)4月に発生した平成28年熊本地震により、阿蘇山西駅・火口西駅の両駅舎と、その間に立つ4本の支柱に亀裂(きれつ)が生じました。

さらに同年10月8日未明、中岳第一火口で爆発的噴火が発生しました。噴煙は高度1万mを超え、36年ぶりとなる規模の噴火となっています。この噴火に伴う噴石により、火口西駅の駅舎屋根には穴が開き、ゴンドラを含む設備が損傷しました。

地震と噴火という二つの災害が半年の間に重なったことで、阿蘇山ロープウェーは運行再開が著しく困難な状態に陥りました。

平成30年(2018)— 解体・撤去の決定

平成30年(2018)10月12日、九州産交ーリズムは、阿蘇山西駅・火口西駅の両駅舎とロープの支柱を解体・撤去することを発表しました。この時点では、解体後にあらためて施設を再建する方針が示されていました。

解体工事は同年10月から着手され、支柱と火口西駅は年内に、事務所や土産店・レストランが入居していた阿蘇山西駅は年明け以降に撤去する計画とされました。

なお、火口までの移動手段としては、平成30年(2018)2月28日の入山規制解除を受けて、ロープウェー代行バス「阿蘇山ループシャトル」の運行が同日から始まっています。

令和元年(2019)— 架け替え計画とその中止

令和元年(2019)5月22日、九州産交ーリズムは阿蘇山ロープウェーの架け替えを決定したことを発表し、同月30日に地鎮祭(じちんさい)が行われました。令和2年度(2020年度)中の竣工(しゅんこう)を目指す計画でした。

当時の発表内容

2020 年度内完成めざし
新生『阿蘇山ロープウェー』建設着手!(PDF · 770 KB)


公表された新施設の計画は、火山という立地条件に正面から対応するものでした。

  • 索道方式:2両連結の複式単線交走式(フニテル方式)を採用。国内初のフニテル2両連結交走式となる予定でした
  • ゴンドラ:定員28名を2両連結し、計56名(従来は1両91名)
  • 所要時間:約3.5分(従来は約4.5分)/運行速度は毎秒5.0m(従来は毎秒3.6m)
  • 傾斜距離:841m(水平距離834m)
  • 火山ガス対策:ロープ自体が動く方式とすることで、同一箇所へのガス付着による断線を抑制
  • 噴石対策:内閣府の手引きを参考に、直径50cmの噴石が貫通しないスラブ厚400mmの駅舎とし、退避壕としての機能を持たせる
  • 避難機能:山頂駅(火口西駅)の地下1階に約200名を収容できる避難待機所と救護室を設置
  • 設備配置:ロープウェーの主要装置を山頂駅から山麓駅へ移設し、噴火から保護するとともに規制時の保守性を向上

しかし同年12月24日、九州産交ーリズムは架け替え工事の中止を発表しました。公式リリースが挙げた理由は次のとおりです。

  1. 火山活動の高まりによる長期の入山規制で、全体工事に着手できない状態が続いていたこと
  2. 建設予定地の地盤が脆弱(ぜいじゃく)であることが判明し、工法の再検討に伴う工事費の増大と工期の延長が確実となったこと
  3. 将来にわたって同様の状況が繰り返し予測され、索道事業の安全な運営が困難で、経営の健全性が担保できないと判断されたこと

同リリースは、中岳火口が熊本観光・九州観光の大きな財産であるとの認識を示したうえで、バスを使った旅客輸送を中心とする代替サービスを検討する方針を併せて表明しました(九州産交ーリズム『「阿蘇山ロープウェー」建設中止のお知らせ』令和元年12月24日)。

この発表をもって、昭和33年(1958)から続いた阿蘇山ロープウェーの歴史は終わりました。


廃止後の状況

阿蘇山火口シャトル

令和2年(2020)11月1日から、阿蘇山ロープウェーの代替として「阿蘇山火口シャトル」の運行が始まりました。阿蘇山上ターミナル(旧・阿蘇山西駅)と中岳火口横の駐車場との間を、阿蘇山公園道路経由で往復するバスです。運行は産交バス阿蘇営業所に委託されています。

それ以前に運行されていた「阿蘇山ループシャトル」は、令和2年(2020)10月をもって運行を終えました。

阿蘇山火口シャトルは、阿蘇火山防災会議協議会による火口規制、および気象庁の噴火警戒レベルに連動して運休します。噴火警戒レベルが2以上となった場合、または火山ガスや濃霧による立入規制が発令された場合は運行されません。

令和5年(2023)8月10日には、一般見学エリアであるBゾーンが火山ガスで利用できない場合に開放される新たな見学エリア「Eゾーン」が設けられ、専用バスが運行される仕組みが加わりました。

阿蘇山上ターミナル

阿蘇山西駅の跡地には、令和3年(2021)2月12日に「阿蘇山上ターミナル」が開業し、翌13日からバスの乗り入れが始まりました。館内にはインフォメーションとバスのりば、売店が置かれ、乗用車65台分の無料駐車場を備えています。

阿蘇山上ターミナルは、阿蘇駅方面からの阿蘇登山線バス、熊本市方面からの阿蘇山上線バス、および阿蘇山火口シャトルの結節点として機能しています。

令和8年(2026)現在の状況

令和8年(2026)8月時点では、中岳火口周辺の立入規制が続いており、阿蘇山公園道路も閉鎖されています。環境省九州環境局は令和8年(2026)6月12日更新の情報で、阿蘇山公園道路の閉鎖により車両通行および火口見学ができない旨を告知しています。

火口見学ができない期間も、古坊中(ふるぼうちゅう)駐車場(阿蘇山上広場)からの砂千里(すなせんり)ルート皿山(さらやま)経由、または仙酔峡ルートからの中岳高岳への登山は可能とされています。

なお、火口見学および周辺施設の運用状況は火山活動によって短期間で変化します。訪問にあたっては、阿蘇火山防災会議協議会および気象庁の最新情報を確認する必要があります。


阿蘇山ロープウェーが残したもの

阿蘇山ロープウェーは、活動中の火山の火口縁に大量輸送手段を架けるという、国内でも例のない試みでした。開業直後の昭和33年(1958)の爆発で犠牲者を出し、その後も噴火のたびに運休を繰り返しながら、約61年にわたって阿蘇の火口観光を支えたことになります。

同時に、その廃止の経緯は、活火山における観光インフラの限界を示す記録でもあります。令和元年(2019)の建設中止リリースが「索道事業の安全な運営が非常に難しく、ひいては経営の健全性が担保できない」と述べたとおり、恒久的な設備を火口近傍に維持することの困難さが、二度の被災と再建断念を通じて明らかになりました。

阿蘇山ロープウェーの廃止後、火口へのアクセスは道路とバスに一本化されました。これは、規制の発令・解除に応じて機動的に運休・再開できる形態への転換でもあり、火山との共存のあり方が変化したことを示していると考えられています。

阿蘇市内では、同じく火口へ通じていた仙酔峡ロープウェイも、車両モーターの故障による長期運休を経て平成31年/令和元年(2019)に廃止されており、阿蘇の火口を結んだ2本の索道はいずれも姿を消しています。


よくある質問

Q. 阿蘇山ロープウェーはいつ廃止されましたか?

A. 平成26年(2014)8月30日の噴火警戒レベル引き上げを最後に運行が停止し、令和元年(2019)12月24日に事業者である九州産交ーリズムが架け替え工事の中止を発表したことで、実質的に廃止されました。営業期間は昭和33年(1958)4月10日からの約61年間にあたります。

Q. 阿蘇山ロープウェーが廃止された理由は何ですか?

A. 平成28年(2016)4月の熊本地震と同年10月の中岳爆発的噴火による被災に加え、長期の入山規制で工事に着手できなかったこと、建設予定地の地盤が脆弱で工事費と工期が増大することが判明したこと、将来も同様の事態が予測され安全な索道運営と経営の健全性が担保できないと判断されたことが、事業者から理由として示されています。

Q. 現在、中岳火口へはどのように行けますか?

A. 阿蘇山上ターミナルから「阿蘇山火口シャトル」が阿蘇山公園道路を経由して運行されています。ただし噴火警戒レベルや火山ガスの状況によって運休します。令和8年(2026)8月時点では阿蘇山公園道路が閉鎖されており、火口見学はできません。

Q. 阿蘇山ロープウェーの跡は残っていますか?

A. 駅舎・支柱・架線はいずれも撤去されており、施設としての痕跡はほとんど残っていません。山麓側の阿蘇山西駅の跡地には、令和3年(2021)2月12日に阿蘇山上ターミナルが開業しています。


関連項目

  • 中岳
  • 噴火災害
  • 仙酔峡
  • 草千里
  • 阿蘇ジオパーク
  • 阿蘇くじゅう国立公園
  • 平成28年熊本地震
  • 古坊中
  • 阿蘇山公園道路
  • 阿蘇山上ターミナル
  • 仙酔峡ロープウェイ

参考文献

  • 九州産交ツーリズム株式会社『「阿蘇山ロープウェー」建設中止のお知らせ(新たなバス旅客輸送等の検討へ)』令和元年(2019)12月24日
  • 九州産交ツーリズム株式会社『2020年度内完成めざし 新生「阿蘇山ロープウェー」建設着手!』令和元年(2019)5月30日
  • 九州産交ツーリズム株式会社『「阿蘇山上ターミナル」運営開始のお知らせ』令和3年(2021)2月8日
  • 九州産交ツーリズム株式会社「阿蘇山火口シャトル」公式サイト(https://www.kyusanko.co.jp/aso/ 、2026年8月閲覧)
  • 環境省九州環境局「阿蘇中岳の火口見学の閉鎖と砂千里ヶ浜の通行について」2026年6月12日更新(https://kyushu.env.go.jp/topics_00254.html 、2026年8月閲覧)
  • 阿蘇市「阿蘇山」(阿蘇市公式サイト、2026年8月閲覧)
  • 阿蘇ペディア「噴火災害」(article-2036)
  • 阿蘇ペディア「中岳」(article-1876)
更新日: 2014-06-19 (木) 00:00:00 (4434d)