概要
阿蘇火山防災会議協議会(あそかざんぼうさいかいぎきょうぎかい)とは、阿蘇山(あそさん)の火山活動から登山者および地域住民の生命・財産を守ることを目的として設置された防災組織です。「災害対策基本法(さいがいたいさくきほんほう)」第45条の規定に基づき、昭和42年(1967)11月4日に設立されました。会長は阿蘇市長が務め、阿蘇市・南阿蘇村・高森町をはじめとする関係自治体・関係機関で構成されています。事務局は阿蘇市が担っています。
設立の目的・法的根拠
協議会は、火山噴火や火山ガスなどの災害から登山者・住民を守るため、次の役割を担うことを目的としています。
- 阿蘇火山防災計画の作成・修正
- 災害対策基本法第45条に基づく、必要な要請・勧告・指示等
- 災害時における情報収集、災害応急対策および災害復旧に関する関係市町村・関係機関相互の連絡調整
- 火山活動状況の報告
- 防災訓練の実施
昭和42年(1967)12月には、設立の翌月には早くも「阿蘇火山防災計画」が策定されており、発足直後から実務的な防災体制の整備が進められたことがわかります(阿蘇市総務部総務課防災対策室資料)。
沿革
設立の背景(昭和期の被害の歴史)
阿蘇山では、協議会設立以前から噴火や火山ガスによる人的被害がたびたび発生していました。昭和7年(1932)12月の噴石による負傷者13名を皮切りに、昭和28年(1953)4月の噴火では死者6名・負傷者90名余、昭和33年(1958)4月の噴火では死者12名・負傷者28名という大きな被害が出ています。昭和54年(1979)9月6日の噴火でも死者3名・重症2名・軽症9名の被害が記録されており、こうした度重なる犠牲を背景に、登山者・住民の安全確保を目的とした恒常的な防災組織の必要性が高まっていました。
火山ガス対策の強化(平成9年以降)
昭和期の噴石被害に加え、平成元年(1989)から平成9年(1997)にかけては中岳(なかだけ)火口(かこう)周辺で火山ガス(二酸化硫黄(にさんかいおう)、SO2)による死亡事故が相次ぎました。平成元年(1989)2月、平成2年(1990)3月・4月・10月、平成6年(1994)5月、平成9年(1997)11月と、断続的に死亡事故が発生しています。
これを受けて平成9年(1997)12月25日、協議会は火山研究者ら学識経験者を委員とする「阿蘇火山ガス安全対策専門委員会」を設置しました。同委員会の事務局は阿蘇火山防災会議協議会が務めています。ガス規制の基準は段階的に整備され、平成10年(1998)にはA・B・Cの3区域による規制、平成11年(1999)には現行のA・B-1・B-2・C・Dの5区域制へと改められました。中でもAゾーンはガス濃度の急変が激しいことから、常時立入禁止とされています。平成18年(2006)には規制基準がさらに見直され、5.00ppm以上の検出で規制、2ppm以下を確認したうえで30分後まで0ppmを確認できた場合に解除するという基準が定められました。平成9年(1997)11月の事故を最後に、火山ガスによる死者は確認されていません。
噴火警戒レベルに応じた立入規制
現在の規制体系は、平常時の自主規制(ガス濃度による火口見学禁止)と、気象庁が発表する噴火警戒レベルに応じた4段階の立入規制の、二本立てで構成されています。噴火警戒レベル2の発表時には火口周辺概ね1kmの範囲内、レベル3では概ね2〜4km、居住区域に及ぶレベル4以上では概ね4kmの範囲内が、それぞれ立入禁止となります。規制の解除は、登山禁止→第2次規制→第1次規制→解除の順に段階的に緩和する運用がとられています。
組織構成(令和7年(2025)5月現在)
気象庁および協議会公式サイトの公表情報によると、構成は次のとおりです。
会長
委員(構成機関)
- 南阿蘇村長
- 高森町長
- 熊本県阿蘇地域振興局長
- 熊本県阿蘇警察署長
- 熊本県高森警察署長
- 環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所長
- 気象庁熊本地方気象台次長
- 気象庁阿蘇山火山防災連絡事務所長
- 国土交通省九州地方整備局阿蘇砂防事務所長
- 国土交通省国土地理院九州地方測量部長
- 阿蘇広域行政事務組合消防本部消防長
- 一般財団法人自然公園財団阿蘇支部長
- 日本赤十字社熊本県支部事務局長
- 京都大学火山研究センター教授
- 公益財団法人阿蘇火山博物館長
なお、平成27年(2015)時点の旧構成と比較すると、国土交通省九州地方整備局阿蘇砂防事務所長、国土地理院九州地方測量部長、京都大学火山研究センター教授、阿蘇火山博物館長などが新たに加わっており、火山観測・砂防・学術研究の分野との連携が強化されていることがうかがえます。
主な活動
総会
例年5月頃に協議会総会が開催され、前年度の事業・決算の認定、当年度の事業・予算の承認、最近の火山活動状況の報告が行われています。
防災訓練
過去には、死者3名・負傷者11名を出した昭和54年(1979)9月6日の噴火を想定した総合的な救助訓練が実施されました。気象庁・警察・消防・熊本県・構成市町村・日本赤十字社・自衛隊・九州電力・NTTなど34機関、約400名が参加し、ガス規制訓練、避難誘導訓練、情報伝達訓練、現地応急対応訓練、災害対策本部および現地指揮本部の設置訓練、救出救護訓練などが行われています。
火山ガス対策
ガス周知専任職員の配置、喘息や気管支・心臓に疾患のある人の見学制限、火山ガスを自動検知してパトライトで来訪者に知らせる仕組みなど、多段階の安全対策を継続しています。
過去の噴火対応事例:平成28年(2016)阿蘇中岳噴火
協議会の実際の運用事例として、平成28年(2016)10月8日の阿蘇中岳(なかだけ)爆発的(ばくはつてき)噴火(ふんか)への対応が記録されています。
同日、噴火に伴い噴火警戒レベルが3に引き上げられ、火口から概ね2km範囲内が立入規制となりました。10月9日には協議会による立入調査、10月12日には火口周辺調査が実施されています。同日中には防災行政無線・IP告知端末・緊急速報メール・登録制メールにより阿蘇市全域へ注意喚起が行われ、市の災害対策連絡本部と現地災害対策連絡本部が設置されました。その後、噴火警戒レベルは同年12月20日に2へ(火口から概ね1km範囲内の規制)、翌平成29年(2017)2月7日には1へと段階的に引き下げられています。
この際の影響として、山上有料道路の通行料収入が減少し、協議会の予算にも影響が生じたことが記録に残っています。このほか、波野(なみの)地区での白菜・キャベツへの降灰、山上レストランでの修学旅行キャンセルの増加、宿泊施設の利用減少など、農業・観光・生活の各分野に及ぶ影響が報告されました。
関連組織との関係
阿蘇山の火山防災に関わる組織は、性格の異なる複数の体制が重層的に機能しています。
- 阿蘇火山防災会議協議会(昭和42年(1967)設置):本記事の協議会。災害対策基本法第45条に基づき、阿蘇市を中心とした市町村・関係機関で構成される、最も歴史の長い体制です。
- 阿蘇火山ガス安全対策専門委員会(平成9年(1997)設置):火山ガス対策に特化した専門委員会で、事務局は阿蘇火山防災会議協議会が務めています。
- 熊本県火山防災協議会(平成29年(2017)3月31日設置):活動火山対策特別措置法(昭和48年法律第61号)第4条に基づき、熊本県を事務局として設置された、より広域的な協議体です。噴火シナリオ・火山ハザードマップ・噴火警戒レベル・広域避難計画などを協議しています。
このうち熊本県火山防災協議会は、平成30年(2019)12月に阿蘇火山広域避難計画、令和元年(2020)12月に阿蘇火山広域避難行動計画を策定し、令和5年(2023)1月に両計画を修正しています。阿蘇火山防災会議協議会が現地の実務的な防災体制を担う一方、熊本県火山防災協議会は広域避難計画などのより大きな枠組みを担う、という役割分担がなされていると考えられます。
現在の状況
協議会は令和7年(2025)5月現在も活動を継続しており、火山活動の監視、観光客の安全確保・避難誘導にあたっています。常時監視体制として、阿蘇山上事務所(あそさんじょうじむしょ)の職員および会計年度任用職員4名に加え、監視業務の民間委託3名が配置されています。
よくある質問
Q. 阿蘇火山防災会議協議会はいつ設立されましたか? A. 昭和42年(1967)11月4日、災害対策基本法に基づいて設立されました。
Q. 会長は誰が務めていますか? A. 阿蘇市長が会長を務め、事務局は阿蘇市防災情報課が担っています。
Q. どのような活動を行っていますか? A. 阿蘇火山防災計画の作成・修正、火山活動状況の報告、防災訓練の実施、火山ガスの立入規制などを行っています。例年5月頃には総会が開催されます。
Q. 熊本県火山防災協議会とはどう違いますか? A. 阿蘇火山防災会議協議会は昭和42年(1967)設置の市町村主体の組織で、現地の実務的な防災体制を担います。熊本県火山防災協議会は平成29年(2017)設置で、熊本県を事務局とし、広域避難計画など、より広域的な枠組みを担っています。
関連項目
参考文献
- 気象庁「阿蘇山の火山防災協議会など」(令和7年5月現在)
- 阿蘇火山防災会議協議会公式サイト「阿蘇火山西火口規制情報」
- 市原敏博(阿蘇市総務部総務課防災対策室)「阿蘇火山防災について」火山防災推進会議資料
- 熊本県ホームページ「阿蘇火山広域避難計画・行動計画」(令和5年1月更新)
- 阿蘇市公式サイト「阿蘇火山防災計画」