メインコンテンツへスキップ
阿蘇の自然

日奈久断層帯

⚠️ 本記事には進行中の事象に関する記述が含まれます。 令和8年(2026)熊本地震に関する評価は同年7月31日時点のものであり、地震調査委員会・国土地理院による精査が継続中です。今後の公式発表により内容が更新される可能性があります。

概要

日奈久断層帯(ひなぐだんそうたい)とは、熊本県上益城郡(かみましきぐん)益城町(ましきまち)木山付近から葦北郡(あしきたぐん)芦北町(あしきたまち)を経て、八代海(やつしろかい)南部に至る活断層帯です。おおむね北東-南西方向に延び、全体の長さは約81kmである可能性があるとされています。

日奈久断層帯は、その北端において布田川断層帯(ふたがわだんそうたい)と接しています。布田川断層帯が阿蘇外輪山(あそがいりんざん)の西側斜面から宇土(うと)半島の先端に至る活断層帯であることから、両断層帯は阿蘇地域の地形形成と密接に関わる存在として、一体的に「布田川・日奈久断層帯」と呼ばれることもあります。

日奈久断層帯は、断層南東側が相対的に隆起する上下成分を伴う右横ずれ断層です。一部では断層が並走して小規模な地溝帯(ちこうたい)を形成しています。平成28年(2016)熊本地震、および令和8年(2026)熊本地震という、いずれも震度7を観測した2つの大地震に関与した活断層帯として知られています。

位置と区間区分

日奈久断層帯は、過去の活動時期や分布形態などから、次の3つの区間に区分されると推定されています。

区間名 範囲 長さ
高野-白旗(たかの-しらはた)区間 益城町木山付近から宇城市(うきし)豊野町山崎付近まで 約16km
日奈久区間 宇城市豊野町山崎付近から芦北町の御立岬(おたちみさき)付近まで 約40km
八代海区間 御立岬付近から八代海南部まで 約30km(可能性)

この3区間区分は、平成25年度(2013年度)に地震調査研究推進本部地震調査委員会が布田川・日奈久断層帯を「布田川断層帯」と「日奈久断層帯」の2つに分割して再評価した際に整理されたものです。それ以前の平成14年(2002)の評価では、北東部・中部・南西部という区分が用いられていました。

高野-白旗区間は高野断層・白旗断層からなります。日奈久断層帯は、九州を内帯(ないたい)と外帯(がいたい)に分ける中央構造線に相当するとされる臼杵(うすき)-八代線を切っており、九州における中央構造線とも呼ばれることがあります。

地質学的背景

日奈久断層帯および布田川断層帯は、九州中部に広く分布する右横ずれ断層系の一部を構成しています。この地域は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う応力場のもとで、東西方向に引き伸ばされる(伸張場)と同時に、北東-南西方向の右横ずれ変位が生じる場となっています。

阿蘇地域との関係では、布田川断層帯が阿蘇外輪山の西側斜面から始まっていることが重要です。平成28年(2016)熊本地震の際には、布田川断層帯の破壊域が阿蘇外輪山(カルデラ)にまで達していたと評価されており、阿蘇のカルデラ地形と断層帯の活動が同一の地殻変動場のなかで関連していることが示されています。

過去の活動

地震調査研究推進本部による長期評価では、各区間の過去の活動が次のように推定されています。

高野-白旗区間

最新活動時期は約1,600年前以後、約1,200年前以前と推定されます。平均活動間隔は不明です。活動時のずれの量は、右横ずれを主体として2m程度であった可能性があります。

日奈久区間

平均活動間隔は3,600年から1万1,000年程度である可能性があります。最新活動時期は約8,400年前以後、約2,000年前以前と推定され、活動時には断層南東側の3m程度の相対的隆起と、それ以上の右横ずれがあったと推定されています。

八代海区間

平均して1,100年から6,400年程度の間隔で活動した可能性があります。最新活動時期は約1,700年前以後、約900年前以前と推定され、天平16年(744)の肥後(ひご)地震がこの区間の活動による可能性が指摘されています。活動時には3m程度のずれがあったと推定されますが、ずれの向きは不明です。

なお、宇城市小川町南部田(みなみべた)で実施されたトレンチ調査の結果からは、約1万8,000年前以降に6回の古地震イベントが推定されています。八代市津奈木町(つなぎまち)沖の音波探査と海底ボーリング調査の結果からは、約1万年前以降に4回以上の古地震イベントが推定されています。

平成28年(2016)熊本地震との関係

平成28年(2016)4月14日21時26分、熊本県熊本地方の深さ約10kmでマグニチュード6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測しました。続く4月16日1時25分には、同地方の深さ約12kmでマグニチュード7.3の地震が発生し、益城町・西原村(にしはらむら)で震度7を観測しました。

地震調査研究推進本部地震調査委員会は同年4月17日、「本震は布田川断層帯の布田川区間を含む約27km、前震は日奈久断層帯の高野-白旗区間の活動によるものであり、一連の地震活動は2つの断層帯が連動するようにして発生した」との評価結果を発表しました。また、本震で動いた断層の範囲は想定よりも東西に数kmずつ長く、東端は阿蘇山外輪山(カルデラ)まで達していたとされています。

このとき、日奈久断層帯については、高野-白旗区間の北端から約6kmの区間に地表地震断層が現れました。日奈久区間および八代海区間は、この地震では活動しなかったと評価されています。この「割れ残り」の存在は、平成28年熊本地震の直後から専門家によって継続的に指摘されてきました。

令和8年(2026)熊本地震との関係

令和8年(2026)7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と八代郡氷川町(ひかわちょう)で最大震度7を観測しました。気象庁はこの地震を「令和8年熊本地震」と命名しました。

地震調査委員会の評価

政府の地震調査委員会は令和8年7月29日に臨時会合を開き、今回の地震の震源が日奈久断層帯であり、約30kmにわたって活動したと推定されるとの評価結果をまとめました。活動した震源断層は、日奈久区間の北東部と高野-白旗区間の一部に及んでいると考えられるとしています。

小原一成(こはらかずなり)委員長(東京大学名誉教授)は会合後の記者会見で、「まだ割れ残っている部分がある。将来的に地震を引き起こす可能性は十分ある」と注意を呼びかけました。また、平成28年熊本地震の割れ残りが今回動いたとの見方が委員から出たことを明かしたうえで、両者が重なっているかどうかは「さらに精査の必要がある」との結論に至ったと説明しています。

国土地理院の観測結果

国土地理院は令和8年7月28日、電子基準点による地殻変動の観測結果を発表し、電子基準点「千丁(せんちょう)」で北東方向に約84cmの変動が見られたことを明らかにしました。翌29日には蓄積された観測データの解析結果(第2報)として、同基準点で北東方向に約87cmの変動、約32cmの沈降が観測されたと発表しています。

国土地理院は同日、震源断層モデル(暫定)も公表しました。さらに、観測衛星「だいち2号」および「だいち4号」の観測データの干渉解析による地殻変動の解析結果も発表され、7月30日に更新されています。また、活断層図「日奈久」を含む関連図面が公開されました。

出典:国土地理院

 

残された「割れ残り」区間

地震調査委員会の推定によると、令和8年熊本地震では日奈久区間の北東部と高野-白旗区間の一部の計約30kmが活動しましたが、日奈久区間にはなお割れ残りがあり、八代海区間は今回の地震では動いていないとされています。

八代海区間について、地震調査委員会は今後30年でマグニチュード7.3程度の地震を起こす確率を「ほぼ0〜16%」と評価し、切迫度が最も高い「Sランク」(3%以上)に位置づけています。

将来の地震発生の可能性

地震調査研究推進本部の長期評価(令和8年熊本地震の発生以前に公表されたもの)では、各区間について次のように推定されています。

区間 想定される地震規模 30年以内の地震発生確率
高野-白旗区間 M6.8程度 不明(平均活動間隔が不明のため算出不可)
日奈久区間 M7.5程度 ほぼ0%〜6%
八代海区間 M7.3程度 ほぼ0%〜16%(Sランク)

3つの区間は別々に活動すると推定されていますが、全体が同時に活動する可能性も否定できないとされ、その場合にはマグニチュード7.7から8.0程度の地震が発生する可能性があります。さらに、日奈久断層帯の全体および布田川断層帯の布田川区間が同時に活動する場合には、マグニチュード7.8から8.2程度の地震が発生する可能性が指摘されています。

【要注記】 上記の確率値は、令和8年(2026)熊本地震の発生を反映していない時点の評価です。今回の地震により日奈久区間の北東部と高野-白旗区間の一部が活動したため、これらの区間の評価は今後改訂される見込みです。最新の評価については地震調査研究推進本部の公表資料を確認する必要があります。

阿蘇地域との関わり

日奈久断層帯そのものは阿蘇地域を通過していませんが、北端で接する布田川断層帯は阿蘇外輪山の西側斜面を起点としており、阿蘇地域の防災を考えるうえで無関係ではありません。

平成28年(2016)熊本地震では、布田川断層帯の破壊が阿蘇外輪山にまで及び、阿蘇大橋(あそおおはし)の崩落、南阿蘇村立野(たての)地区の大規模な斜面崩壊、阿蘇神社(あそじんじゃ)楼門・拝殿の倒壊など、阿蘇地域に甚大な被害をもたらしました。

一方、令和8年(2026)熊本地震では、活動域が日奈久断層帯の南西側(熊本地方南部から八代方面)であったため、阿蘇市南阿蘇村高森町(たかもりまち)の震度は5弱にとどまりました。ただし、JR豊肥本線(ほうひほんせん)や南阿蘇鉄道(みなみあそてつどう)の運転見合わせなど、交通面での影響が生じています。

阿蘇ジオパークの視点からは、日奈久断層帯・布田川断層帯は、阿蘇カルデラの形成と同じ地殻変動場のなかで生じた地質構造として位置づけられます。断層帯の存在は、この地域が現在も活発に変動を続ける大地であることを示す証拠のひとつです。

よくある質問

Q. 日奈久断層帯とは何ですか? A. 熊本県益城町木山付近から芦北町を経て八代海南部に至る、全長約81kmの活断層帯です。おおむね北東-南西方向に延びる右横ずれ断層で、高野-白旗区間・日奈久区間・八代海区間の3区間に区分されています。

Q. 日奈久断層帯はどこを通っていますか? A. 益城町・宇城市・八代市・芦北町などを経て、八代海南部に及びます。阿蘇地域そのものは通過していませんが、北端で接する布田川断層帯が阿蘇外輪山の西側斜面から始まっています。

Q. 平成28年(2016)熊本地震と令和8年(2026)熊本地震はどう違いますか? A. 平成28年熊本地震では、布田川断層帯の布田川区間と日奈久断層帯の高野-白旗区間の一部が活動しました。令和8年熊本地震では、地震調査委員会の評価によれば、日奈久区間の北東部と高野-白旗区間の一部の計約30kmが活動したとされています。

Q. 「割れ残り」とは何ですか? A. 活断層帯のなかで、まだずれ動いていない区間を指す表現です。令和8年(2026)7月時点で、日奈久区間の一部と八代海区間が割れ残りとされており、将来的に地震を引き起こす可能性が指摘されています。

Q. 八代海区間の地震発生確率はどのくらいですか? A. 地震調査委員会は、今後30年以内にマグニチュード7.3程度の地震が発生する確率を「ほぼ0〜16%」と評価し、切迫度が最も高い「Sランク」(3%以上)に位置づけています。

Q. 阿蘇地域は日奈久断層帯の影響を受けますか? A. 日奈久断層帯自体は阿蘇地域を通過していないため、直接的な地表変位の影響は想定されていません。ただし、地震の規模によっては阿蘇地域でも強い揺れを観測する可能性があり、平成28年熊本地震では布田川断層帯の活動により阿蘇地域が甚大な被害を受けました。

関連項目

参考文献

更新日: 2026-07-31 (金) 01:01:13 (0d)