概要
阿蘇くじゅう国立公園(あそくじゅうこくりつこうえん)とは、熊本県と大分県にまたがる、阿蘇山とくじゅう連山(れんざん)を中心とする国立公園です。九州のほぼ中央に位置し、世界最大級の規模を持つ阿蘇カルデラと、その北東に連なるくじゅう連山の火山地形、そしてそれらの裾野に広がる雄大な草原景観を特徴としています(環境省)。
- 面積は73,017ヘクタールで、熊本県と大分県にまたがります(環境省、2026年7月閲覧)。
- 昭和9年(1934)12月4日に「阿蘇国立公園」として指定され、昭和61年(1986)9月10日に現在の名称「阿蘇くじゅう国立公園」に改称されました。
- 阿蘇地域の中央火口丘(ちゅうおうかこうきゅう)である阿蘇五岳(あそごがく)の中岳(なかだけ)や、くじゅう連山の硫黄山(いおうやま)は、現在も活発な火山活動を続けています。
指定と沿革
阿蘇くじゅう国立公園は、大正時代から続いた国立公園候補地の調査を経て、昭和9年(1934)12月4日、瀬戸内海・雲仙・霧島の各国立公園に次いで、阿寒・大雪山・日光・中部山岳と同日に「阿蘇国立公園」として指定されました。これは日本で最初期に指定された国立公園群の一つです。
その後、昭和28年(1953)に大分県の由布岳(ゆふだけ)・鶴見岳(つるみだけ)・高崎山地域が拡張指定され、昭和31年(1956)に高崎山地域が分離して瀬戸内海国立公園に編入されました。昭和39年(1964)には、公園を縦断する有料道路「別府阿蘇道路」(通称・やまなみハイウェイ)が開通し、平成6年(1994)の料金徴収期間満了により無料開放されています。
昭和61年(1986)9月10日、大分県知事および関係市町村からの要望を踏まえ、くじゅう連山を含む公園全域の実情をより適切に反映する名称として、「阿蘇くじゅう国立公園」に改称されました。名称中の「くじゅう」は、大分県側で用いられてきた「九重」「久住」双方の表記に配慮し、平仮名表記が採用されています。
なお、改称前の「阿蘇国立公園」時代の沿革・区域の詳細については、別項「阿蘇国立公園」を参照してください。
地形・景観
阿蘇地域
阿蘇地域は、南北約25km、東西約18kmに及ぶ世界最大級のカルデラを有し、最高峰の高岳(たかだけ)(1,592m)をはじめ、中岳(なかだけ)(1,506m)・根子岳(ねこだけ)(1,433m)・杵島岳(きしまだけ)(1,326m)・烏帽子岳(えぼしだけ)(1,337m)からなる阿蘇五岳(あそごがく)(中央火口丘)と、その周囲の火口原・外輪山(がいりんざん)によって構成されています(環境省)。外輪山の周囲については、阿蘇火山博物館は「約100km」、阿蘇市公式サイトは「約128km」としており、資料によって数値に差があります。
中岳では現在も噴煙をあげる火口が見られ、円錐形の火砕丘(かさいきゅう)である米塚(こめづか)や、広大な草原の草千里ヶ浜(くさせんりがはま)など、変化に富んだ火山景観が連続して見られます。
くじゅう地域
くじゅう地域は、最高峰の中岳(なかだけ)(1,791m)をはじめ、主峰の久住山(くじゅうさん)(1,786m)、星生山(ほっしょうさん)、三俣山(みまたやま)など1,700m級の山々からなる、トロイデ(鐘状火山)型の火山地形です。中岳は九州本土の最高峰にあたりますが、くじゅう連山の主峰として古くから親しまれてきたのは久住山であり、両者は別の峰です。
くじゅう連山の周辺では、硫黄山(いおうやま)をはじめ各所で硫気現象が見られるほか、火山灰などによって形成された飯田(はんだ)高原・久住高原などの広大な草原景観が広がります。窪地には湧水や雨水による湿原が発達し、タデ原湿原・坊ガツル(ぼうがつる)湿原は、あわせて「くじゅう坊ガツル・タデ原湿原」として平成17年(2005)11月8日にラムサール条約登録湿地となっています。
生態系
公園内の生態系は、火山性ガスが噴気する硫気荒原(りゅうきこうげん)、山麓部に広がる樹林、野焼き・採草によって維持されている草原の3つに大きく区分されます(環境省)。
草原は利用形態によって植生が異なり、野焼き・採草を続けている場所ではススキが優占する長草型の植生、放牧牛馬による採食が続く場所ではシバなどが優占する短草型の植生が見られます。火山周辺の硫気荒原ではミヤマキリシマやコケモモなどが特徴的な群落を形成し、草原にはヒゴタイ・キスミレ・エヒメアヤメといった絶滅危惧種が多く残されており、重要な生育地となっています。
動物では、草原の植物を食草とするオオルリシジミ・ゴマシジミなどのチョウ類、樹林にすむキュウシュウエゾゼミ、草原にすむダイコクコガネなどの昆虫類が知られています。鳥類ではホオジロ・ホオアカ・セッカなどの草原性の種のほか、ノスリ・ツミなどの猛禽類も見られます。両生類ではオオサンショウウオ・ブチサンショウウオなども生息しています(環境省)。
文化と利用
公園内の草原では、樹林への移行を防ぎ茅場(かやば)や放牧地として維持するため、春になると一斉に野焼きが行われます。これは千年以上前から続く営みとされています(環境省)。
火山の恵みとして、公園内には筋湯温泉をはじめ多くの温泉地が点在し、古くから地域の人々や観光客に親しまれてきました。乗馬体験など、草原を活かした体験型の利用も行われています。
阿蘇ジオパークとの関係
阿蘇くじゅう国立公園と阿蘇ジオパークは、しばしば同一視されますが、指定主体と範囲が異なる別の枠組みです。
阿蘇ジオパークは、平成21年(2009)10月に日本ジオパークに認定され、平成26年(2014)9月に世界ジオパークネットワークに認定加盟しました。この活動は平成27年(2015)にユネスコの正式事業(国際地質科学ジオパーク計画)となり、現在は「阿蘇ユネスコ世界ジオパーク」として活動しています(阿蘇ジオパークオフィシャルサイト、日本ジオパークネットワーク)。ジオパークの範囲は、阿蘇市・南小国町・小国町・産山村・高森町・南阿蘇村・西原村・山都町の熊本県側8市町村に限られ、大分県側のくじゅう地域は含まれません。
一方、阿蘇くじゅう国立公園は自然公園法に基づく環境省の指定地域で、熊本県から大分県のくじゅう地域までを範囲としています。両者は阿蘇カルデラ周辺で重なり合うものの、範囲・目的・所管がそれぞれ異なる点に注意が必要です。
平成28年熊本地震後の状況
平成28年(2016)4月の熊本地震では、公園南部の南阿蘇村付近で大規模な斜面崩壊が発生し、国道325号阿蘇大橋(あそおおはし)が崩落しました。熊本市方面から南阿蘇村・高森町方面へのアクセスは長期間寸断されましたが、令和3年(2021)3月7日、旧橋から下流側約600mの地点に「新阿蘇大橋」が開通し、主要アクセスルートが回復しました(九州地方整備局、熊本県公式観光サイト)。
崩落した旧阿蘇大橋の橋桁の一部は、現在も谷に残された状態で保存されており、数鹿流崩(すがるくずれ)之碑展望所から見学することができます。
なお、令和2年(2020)7月豪雨は熊本県内では主に球磨川流域(人吉市・球磨村等)に甚大な被害をもたらしたもので、阿蘇くじゅう国立公園の地域が直接的な被災地として特に報告されている情報は、今回の調査では確認できませんでした。
火山活動と利用上の注意
阿蘇山(中岳第一火口)は現在も活動を続ける活火山で、気象庁が噴火警戒レベルを発表しています。令和8年(2026)6月21日、噴火警戒レベルがレベル1(活火山であることに留意)からレベル2(火口周辺規制)に引き上げられ、中岳第一火口から概ね1km以内が立入禁止となりました。令和8年(2026)7月17日発表の情報でもレベル2が継続しており、火口見学ができない状態です(気象庁、環境省九州地方環境事務所)。
噴火警戒レベルはたびたび変動しており、この記事の記述はあくまで参照時点のものです。中岳火口周辺や登山を計画する場合は、気象庁および阿蘇火山防災会議協議会の最新情報を必ず確認してください。
よくある質問
Q. 阿蘇くじゅう国立公園はいつ指定されましたか。 A. 昭和9年(1934)12月4日に「阿蘇国立公園」として指定されました。昭和61年(1986)9月10日に現在の「阿蘇くじゅう国立公園」に改称されています。
Q. 面積はどのくらいですか。 A. 73,017ヘクタールで、熊本県と大分県にまたがります(環境省、2026年7月時点)。
Q. 阿蘇くじゅう国立公園と阿蘇ジオパークは同じ範囲ですか。 A. 異なります。国立公園は熊本県から大分県のくじゅう地域までを範囲としますが、阿蘇ジオパークは熊本県側の阿蘇地域8市町村に限られ、大分県側は含まれません。
Q. くじゅう連山の最高峰はどこですか。 A. 中岳(なかだけ)(1,791m)で、九州本土の最高峰です。連山の主峰として親しまれている久住山(くじゅうさん)は1,786mで、中岳とは別の峰です。
Q. ミヤマキリシマの見頃はいつですか。 A. 標高や年によって差がありますが、仙酔峡など低い場所では5月上旬から中旬、阿蘇山上やくじゅう連山の高所では5月下旬から6月上旬頃が見頃とされています(環境省、阿蘇市)。
関連項目
- 阿蘇国立公園
- 阿蘇五岳
- 中岳火口
- 杵島岳
- 草千里ヶ浜
- 米塚
- 阿蘇ジオパーク
- 新阿蘇大橋
- 野焼き
- タデ原湿原
- 内牧温泉
参考文献
- 環境省「阿蘇くじゅう国立公園 公園の特徴」(https://www.env.go.jp/park/aso/point/index.html 、2026年7月27日閲覧)
- 環境省「国立公園一覧」(https://www.env.go.jp/park/parks/index.html 、2026年7月27日閲覧)
- 環境省「阿蘇くじゅう国立公園 概要・計画書」(https://www.env.go.jp/park/aso/intro/index.html 、2026年7月27日閲覧)
- 環境省九州地方環境事務所「阿蘇山における噴火警戒レベルの引き上げ(1から2)【2026年6月】」(https://www.env.go.jp/park/page_00636.html 、2026年7月27日閲覧)
- 気象庁「火山活動の状況(阿蘇山)」(https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/activity_info/503.html 、令和8年7月17日発表分、2026年7月27日閲覧)
- 阿蘇ジオパークオフィシャルサイト「阿蘇ジオパークについて」(http://aso-geopark.jp/about/index.html 、2026年7月27日閲覧)
- 日本ジオパークネットワーク「阿蘇ユネスコ世界ジオパーク」(https://geopark.jp/geopark/aso/ 、2026年7月27日閲覧)
- ラムサール条約登録湿地関係市町村会議「くじゅう坊ガツル・タデ原湿原」(https://ramsarsite.jp/wetland-info/1294/ 、2026年7月27日閲覧)
- 九州地方整備局熊本復興事務所、熊本県公式観光サイト「新阿蘇大橋」(https://kumamoto.guide/spots/detail/19361 、2026年7月27日閲覧)
- コトバンク「阿蘇くじゅう国立公園」(日本大百科全書、2026年7月27日閲覧)
- 『阿蘇くじゅう国立公園』(Wikipedia、沿革の一部について参考。要一次資料確認)
- 阿蘇ペディア関連記事「阿蘇国立公園」(https://aso-dm.net/article/article-2882)
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